はじめに

原子炉のドップラー効果は、炉出力の急上昇時に燃料温度変化に対応して炉出力を抑制する効果(反応度フィードバック効果)を与える安全上重要な反応度特性の一種です。

ドップラー効果の予測精度は、炉心出力の過渡変化時での炉心燃料最高温度の推定精度や設計裕度に大きな影響を及ぼします。

高速増殖炉においては、負の反応度フィードバック効果を与えるドップラー効果が固有の安全性として重要視され、開発初期段階から現在までFCAをはじめ、世界各国で予測精度評価のための実験が行われてきました。

一方、軽水炉でのドップラー効果は、1960年代に作られた実験式を元に評価されていますが、以後の新たなデータ測定や信頼性評価実績は少ないのが現状です。また、今後、軽水炉でのMOX燃料利用が進められることに伴い、MOX燃料軽水炉のドップラー効果の予測精度の確認が求められつつあります。

MOX燃料には、ウラン238(U-238)の他にドップラー効果に寄与するプルトニウム240(Pu-240)が含まれています。MOX燃料を用いた軽水炉でのドップラー効果に対するこれら核種の寄与割合は、ほぼ互角です。このため、U-238のドップラー効果に加え、Pu-240のドップラー効果に対する計算予測精度を評価することが重要な課題と考えられています。

そこで、軽水炉でのドップラー反応度効果の信頼性向上に資するデータベースの充実を図ることを目的として、MOX燃料軽水炉でのドップラー反応度効果の評価実験を行っています。

豆知識:原子炉でのドップラー効果とは?
温度上昇に伴ってU-238等の親物質の共鳴吸収反応により中性子を捕獲する確率が増えることにより、核分裂する確率を相対的に小さくさせ、原子炉の出力を下げる働きをします。


測定と解析

これまで、U燃料とMOX燃料でのU-238のドップラー効果に対する計算予測精度を比較するため、これら2種類の燃料組成の実験体系においてドップラー効果を測定しました。ドップラー効果測定用試料には、天然ウラン(U-238の含まれる比率が99%以上)を用いました。

実験データの少ないMOX燃料模擬体系においては、多様な実験データを取得するため、

  • 軽水を模擬するポリスチレンの発泡率を変化させ、実験体系の中性子エネルギースペクトルを変化させる。
  • 組成や径の異なる種々のウラン試料を用いる。

といった工夫により、ドップラー反応度効果の平均エネルギーを幅広く変化させ、軽水炉が運転状態において重要な1keV以下の比較的低い中性子エネルギー範囲において多数の実験データを取得することができました。

測定した軽水炉模擬体系でのU-238のドップラー効果に対する実験解析コードの計算予測精度を評価した結果、今回初めて測定を行ったMOX燃料軽水炉模擬体系においてもU燃料体系と同程度の良好な結果が得られることを確認しました。(図2参照)


図1 FCA外観とドップラー効果測定用試料の炉心装荷模式図


図2 軽水炉模擬体系にて測定したドップラー効果の解析結果[1]

今後、さらに低いエネルギー範囲での測定を目指した実験やPu-240のドップラー効果を測定することを計画しています。 (本テーマに関連する研究) 旧原研時代には、酸化物燃料高速炉の運転時燃料平均温度(約1,200℃)から燃料最高温度(約2,200℃)近辺でのドップラー効果の解析精度を検証することを目的として、2,000℃までのドップラー効果を測定することが可能な装置を開発しました。これにより、高温領域での評価が可能となり、計算予測誤差の低減に大きく寄与しました。


参考文献
[1] M. Andoh, M. Fukushima, S. Okajima and K. Kawasaki, “Measurement and Analysis of 238U Doppler Reactivity Effect in FCA Cores Simulating Light-Water-Moderated MOX Fuel Lattices” , J. Nucl. Sci. Technol., 44, 537-547 (2007).

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