グループの研究内容
線量体系の解説
  • 放射線防護のために定義されている線量とその相互関係

  • 放射線による被ばく線量を表す量として、臓器、組織の受けた吸収線量に、 各臓器、組織の感受性を考慮して与えられた係数である組織加重係数(全身の臓器・組織の係数の総和は1として、感受性の高い臓器や組織に高い値を割り当てて定義)を乗じて、 その値を全身で総和した「実効線量」があります [1,2]。

    しかし、実効線量は測定できないため、放射線防護においては、サーベイメータや線量計による測定のための量も定義されています。 このうち、サーベイメータ等による空間中の線量を測定する量は「周辺線量当量」、 人体に装着した線量計を用いて個人の線量を測定する量は「個人線量当量」と定義されております。 「実効線量」は防護量、「個人線量当量」及び「周辺線量当量」は実用量と呼ばれ、何れもシーベルト(Sv)の単位が与えられております。

    通常、サーベイメータや個人線量計は、原子力施設や放射線施設等の作業者の被ばく線量の管理に利用されております。 ここで、原子力施設などにおける作業者の被ばくする環境では、サーベイメータや線量計の測定する「周辺線量当量」や「個人線量当量」の値が、 「実効線量」を合理的に安全側に評価する(=過小評価しない)ことが確認されております。 そのため、サーベイメータや線量計の測定値を実効線量と見なすことで、作業者の被ばくを安全に管理しております。

    東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)事故では、放射性核種が発電所の外部にも放出され、公衆の方々の被ばく線量を適切に評価することが課題となりました。 特に、放射線施設作業者と原発事故後の環境中における公衆では、線源又は放射性核種から被ばくを受ける際の照射方向が異なることについて留意する必要がありました。 図1は、これをイメージで示しております。

    図1: 放射線作業に伴う被ばくと環境中に沈着した放射性核種による被ばくのイメージ図。



    原子力施設などでは、放射線を発生させる線源(放射性核種)の存在する場所は特定され、通常の場合は線源に対面して作業するものと考えられます。 そのため、作業者は線量計を体の前面に装着します。福島第一原発事故後の公衆の線量測定においても、線量計は体の前面に装着しております。 しかし、放射性核種は広く環境中に沈着しており、例えば体の背面からの放射線に関して、人体が線量計に対して遮へい体として作用することも想定されます。

    そこで、環境中に核種が沈着した条件について、「実効線量」、「周辺線量当量」及び「個人線量当量」の互いの関係を比較できるデータを解析しました [3,4]。 また、福島第一原発事故後の被ばく線量評価に役立てるよう、土壌に分布した放射性セシウムの放射能濃度から「実効線量」、 「個人線量当量」及び「周辺線量当量」を求める換算係数を解析しました(図2)。

    図2: 図1の(b)に示すイメージ図のような被ばくについて、我々の研究で明らかにした換算係数と放射線防護のために定義された線量の関係。


    関連論文
    [1] ICRP Publication 60 (1991).
    [2] ICRP Publication 103 (2007).
    [3] D. Satoh et al., J. Nucl. Sci. Technol., 53, 69-81, (2016).
    [4] D. Satoh et al., J. Nucl. Sci. Technol., 54, 1018-1027, (2017).



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