福島第一原子力発電所の原子炉格納容器内部の環境を模擬した鋼の腐食研究

概要

現在、福島第一原子力発電所(1F) 1−3号機の原子炉格納容器(PCV)内へは冷却水が循環注入されています。廃炉完了までの長期にわたるPCV設備の健全性維持のため、主要構造材である炭素鋼の腐食挙動予測、特に腐食を加速する可能性のある要因を検討する必要があります。PCVの内部調査より、現在PCV内部材料の炭素鋼は気液界面付近で気中と液中の環境が交互に入れ替わる環境(気液交番環境)に曝されていることが確認されました。気液界面付近において金属材料は薄い液膜で覆われていることが報告されており、鋼表面に薄い水膜がある場合に鋼材の腐食速度は水溶液中と比較して加速されると報告されています。以上の理由から、1F PCV内部の気液界面付近の炭素鋼には水中に比べて腐食による過度の減肉が懸念されます。

本研究では、1F の気液界面を模擬した回転型腐食試験装置を開発して気液交番環境における炭素鋼の腐食速度を調査し、気液交番環境における炭素鋼の腐食速度は鋼材表面に形成する液膜の影響で常時液中の環境に比べて4倍以上加速することを明らかにしました。更に、腐食試験後の炭素鋼の腐食生成物の断面観察および分析によって、気液交番環境における炭素鋼には多層構造の鉄さび層が形成するため常に液膜直下の酸素供給量の多い場所で酸素還元反応が生じるため腐食が加速することを明らかにしました。

キーワード

腐食、鋼、液膜、鉄さび、溶存酸素

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大谷恭平
大谷恭平
研究員

主な研究分野:福島第一原子力発電所の原子炉格納容器環境を模擬した鋼の腐食に関する研究、溶液中の金属カチオンに着目した金属材料の腐食研究