材料工学のための陽電子利用研究および開発
陽電子消滅法

陽電子は1832年にアンダーソンによって発見された電子の反粒子であり,電子とともに対消滅し,質量エネルギーがガンマ線として放出される。凝集相中ではほとんどの消滅が2光子放出過程で起こる。この消滅ガンマ線を計測することで行われるのが,陽電子消滅法という分析手法である。ガンマ線を計測することで,いろいろな情報を得ることが出来る。大きく分けるとそのエネルギーと時刻の情報となる。エネルギーは消滅時の陽電子と電子が有する運動量が影響してドップラー効果が起きる.材料研究では,これによって,消滅時の電子の運動量が計測でき,主には内殻電子との消滅の割合が変化する欠陥などに敏感である.


絶縁物質中に関する研究


図1 物質中のポジトロニウム形成機構.従来のポジトロニウム形成は過剰電子と熱化陽電子との反応で、数ピコ秒までに多くが起こっていると考えられている。新しいポジトロニウム形成は低温暗黒中で入射陽電子のイオン化などで形成される準安定化電子が蓄積され、従来のポジトロニウム形成を逃れた陽電子が拡散し、準安定化電子を見つけることで起こる。そのため、図に示すように徐々に増加していく。また、拡散後に起こるため、数百ピコ秒後でも形成が見られる。


図2 77Kにおけるシクロヘキサン中のオルソーポジトロニウム形成収率(全ポジトロニウム形成の75%)の陽電子消滅寿命測定時間依存性(●;暗黒中、○;可視光下)低温暗黒中では準安定化電子が入射陽電子によるイオン化で形成、蓄積されていき、その結果、右の図に示すような新しいポジトロニウム形成が増えていく。図に示すように可視光によって準安定化電子は消えていくので、従来のポジトロニウム形成による成分のみ(約16%)が残ることになる。


金属材料研究

手法開発

陽電子消滅法は最先端のガンマ線計測手法であり,その手法開発も行っている.たとえば,陽電子消滅寿命測定の時間分解能が飛躍的に進歩することで新しい現象を捉え,新しい研究が可能となる.また,計数率においても同じことが言える.最近,波形解析を行うことで,検出器弁別を行う手法を開発し,陽電子消滅法に適用した[7].従来は検出器からの信号はそのまま解析システムに送られ,そこでデータの蓄積や解析が行われてきたが,検出器からの信号を1本のケーブルで輸送し,波形解析を行うことで検出器を弁別し,データの蓄積,解析を行う技術を開発した.検出器の数を増やしても解析系をそれに比例して増やす必要がなく,特に大掛かりな装置を経済的に動かすことが可能になる.

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