核燃料セラミックス中の核分裂によって、高エネルギーの核分裂生成物が発生する。高速の「核分裂片」が核燃料セラミックス中を走る間に深刻な照射損傷を引き起こす。
我々は、照射損傷プロセスのメカニズム解明を通じて、照射損傷の高精度予測、照射耐性の高いセラミックスの開発を研究目標としている。
原子炉中の複雑な照射損傷プロセスをブレークダウンしてメカニズム解明につなげるために、通常、イオン加速器と呼ばれる大型施設を利用して、模擬条件としての照射条件、照射材料を系統的に変えつつ、照射実験を行う。さらに、照射損傷の微細組織を把握するために、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡を駆使して詳細な観察を行っている。
具体的には、主に以下の2つのストラテジーに基づいて、目標達成を目指している。
照射損傷を被って原子配列が一旦崩れたとしても、特定のセラミックスには原子配列を即座に修復する能力があることが、我々の最近の研究により分かりつつある。従来は、セラミックス中の照射損傷は、原子配列を崩す方向に働き、それがそのまま照射損傷として残ると考えられてきた。しかし、耐照射性の高いとされているセラミックスについて詳細に調べていくと、特定のセラミックスにおいては、原子配列を整列させる自己修復能力があることが分かってきた。
例えば、図1 (a)に例を示すように、照射後の微細組織を観察すると、多くのセラミックスにおいて原子配列が崩れる方向に働く。一方、図1 (b)に示すように、特定のセラミックスにおいては、一旦原子配列が崩れたにもかかわらず、最終的には原子配列が修復されていることが判明した。セラミックスがもつ自己修復能力をさらに伸ばすことが出来れば、耐照射性の高いセラミックスを開発することにつながると期待できる。
図1 (a)高エネルギー重イオン照射したY3Fe5O12セラミックスの微細組織、(b) 高エネルギー重イオン照射したBaF2セラミックスの微細組織.(図は、参考文献[2]を基に作成した。)
参考文献
[1] N. Ishikawa et al., "Experimental evidence of crystalline hillocks created by irradiation of CeO2 with swift heavy ions: TEM study", Nanotechnology 26 (2015) 355701.
[2] N. Ishikawa et al., "Hillocks created for amorphizable and nonamorphizable ceramics irradiated with swift heavy ions: TEM study", Nanotechnology 28 (2017) 445708.
[3] N. Ishikawa et al., " TEM analysis of ion tracks and hillocks produced by swift heavy ions of different velocities in Y3Fe5O12", J. Appl. Phys. 127, 055902 (2020).
照射損傷を受けた部分の結晶歪みを調べることにより、損傷の度合いを定量化することが出来る。特に、電子線後方散乱回折法(Electron backscatter diffraction、略称:EBSD)を利用すると、3次元的な結晶変形の様子が詳細に把握できるようになる。イオン照射した材料の結晶歪みの現れ方は、材料に依存して大きく異なる。耐照射性セラミックス材料の場合、照射損傷が特異な形態で現れることが知られている。結晶変形という切り口でみると、今まで見えなかった新しい現象が見える可能性がある。
図2 340 MeV Auイオンビームを左半分のみ照射したサファイア単結晶試料をEBSD解析し、画面横方向の結晶歪みをマッピングしたもの。照射部分が均一に照射されているにもかかわらず、不均一な歪み分布が観測できる。