低炭素ステンレス鋼のSCC機構解明研究

軽水炉(LWR)を安全に信頼性高く運転しつつ寿命を延長することが検討されてい る中,低炭素ステンレス鋼の応力腐食割れ(SCC)への対策は,経年劣化事象の中 でも最重要課題の一つと位置付けられている.近年,10年以上運転された沸騰水 型原子炉(BWR)の中性子損傷が無視できるような部材に用いられている低炭素 オーステナイトステンレス鋼において粒界型SCC (IGSCC)の発生が報告されてい る.その要因解明が精力的に行われてきたが,その機構の全貌は未だ明確になっ ていない.


低炭素オーステナイトステンレス鋼の応力腐食割れ感受性に及ぼす長時間熱時効の影響

数年間という長時間,運転温度である300 ℃前後に曝されることによって,材料の金属組織および粒界近傍の化学組成が変化する可能性があり,SCC発生感受性 に影響を及ぼすと考えられる.

試験片には低炭素オーステナイトステンレス鋼である304L鋼および316L鋼を用いている.両鋼ともに,20%冷間加工(CW),288 ℃で14,000 hの熱時効(LTA),ある いはそれは組み合わせた処理を施した.SCC発生感受性を,BWRの高温高純度水環 境を想定した条件下ですきま付き定ひずみ曲げ試験(CBB試験)( 288 ℃,1000 h) で評価した.

CBB試験後のSCCき裂発生数を図1に示す.CW+LTAを施した316L鋼のCBB試験におけ る典型的なSCCき裂の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真を図2に示す.316L鋼のSCC 発生感受性はCWとLTAの組み合わせ処理により明確に増大した.しかし,304L鋼 ではそのような重畳効果は認められなかった.


図1 CBB試験後の試験片で観察されたSCCき裂数


図2 CBB試験における典型的なSCCき裂のSEM観察写真 (316L CW+LTA)


CBB試験後の316L鋼CWおよびCW+LTA試験片の典型的な表面形態のSEM観察写真を図 3に示す.CBB試験後のCWを施した316L鋼の表面には微細なすべりをもつ結晶粒と 粗い直線的なすべりをもつ結晶粒が両方混在していた.一方で,CBB試験におい て高いSCC発生感受性を示したCW+LTAを施した316L鋼のすべり線模様は主に粗く 直線的であった.この結果は,316L鋼の変形微細組織がLTAによって変化したこ とを示唆している.


図3 CBB試験後の316L鋼の典型的な表面形態のSEM観察写真


これらの結果を理解するために,CWとLTAにより材料に起こる金属組織の変化, 粒界近傍の化学組成の変化,および機械的性質の変化を解析評価し,それらの変 化とSCC発生感受性の相関を検討している.

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