原子・電子シミュレーションによる材料科学研究
構造材料の強度と延性・靱性は構造材料における最も重要な性質であるが、一般にトレードオフの関係があり、力学特性の両立や機能向上は構造材料の普遍的な課題である。材料強化の指針は、転位運動に基づく古典的描像でよく記述され、「組織制御」と「合金設計」によって材料の機能向上が図られてきた。材料設計は経験的な知見に頼って行われてきたが、より高度な材料機能の向上には、材料内部の微視的スケールの現象と理解が不可欠である。そこで、計算科学手法に基づく(A)材料組織および(B)合金化による材料評価手法の開発に注力している(図1)。
図1 構造材料の機能向上のアプローチとモデル化.
(A)の材料組織において、加工や熱処理によって転位密度や粒径などの欠陥組織が力学特性を決定する。そこで、図2に示すように原子モデルを用いて欠陥構造を直接モデル化する。しかし、実際の材料を模擬するためには数億原子もの大きなモデルを必要とするため、領域分割によるMPI並列と高負荷部のOpenMP並列を組み合わせたHybrid並列コードを開発し、変形シミュレーションを行っている。引張変形を行った際の解析例をMovieで示す。
図2 原子モデルによる欠陥構造のモデルかと大規模並列解析手法.
(B)の合金設計において、第一原理計算を用いた自由エネルギーに基づく熱力学的特性が広く行われ多くの成果を挙げてきた一方、力学特性を対象とした評価方法は確立されていない。そこで、図3に示すように強度や延性を決める転位構造や靱性に寄与する粒界などの欠陥構造に対する第一原理計算とそれを用いた力学特性の評価方法について検討を行っている。
図3 第一原理計算に基づく熱力学・力学特性の評価方法の構築.
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