太陽電池を応用した廃炉用高レベル放射線線量計の開発

東京電力福島第一原子力発電所 (1F) の炉内および建屋内は事故の影響で非常に高い放射線環境となっている。我々は、太陽電池素子をセンサとした線量測定技術を基盤とした高線量放射線計測システムを提案し、実用化に向けた開発を行っている。

1F用放射線計測システムに求められる線量測定範囲は、炉心付近のγ線で数〜数100 Gy/hと考えられている。高線量率の測定が可能な従来の検出器は電離箱であるが、炉心環境では残留水素があることや測定機投入手段が10cmφ程度の小さな穴であることから、無電源化・小型化が線量計に求められる。そのため、薄膜構造や内部電界による無電源駆動といった特長を有する太陽電池型の検出器は最適である。

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Figure 1. Radiation-induced current density from a CdTe and an InGaP solar cells as a function of the dose rate of 60Co γ-ray irradiation.


センサ候補としては現在、図1に示すような放射線誘起電流の線量率依存性を有しているCdTeおよびInGaPの太陽電池を検討している。どちらの太陽電池の誘起電流も1Fの原子炉格納容器(PCV)付近で想定されている吸収線量率の範囲において線形的な増加を示していることから、簡単な解析により線量が評価できる可能性が高いと判断している。

また、1F廃炉への応用では、高放射線耐性、放射線環境での信号ノイズの低減および、中性子による放射化を踏まえた対策が必要である。CdTe太陽電池は、60Coγ線を3MGy照射下後でも、ほとんど劣化せず、放射線検出器として優れた放射線耐性を有していることが明らかになった。InGaP太陽電池においては、300kGy程度の照射により劣化が確認されたが、いずれの太陽電池も、1F環境下では、十分使用できる対放射線性を有していると言える。

2021年度までに、1Fでは、PCV内の線量分布を取得し、廃炉の工程を決定する予定である。そのため、今後、本予定に開発速度を合わせて、太陽電池の中性子照射試験、耐湿試験などを得て、実用化レベルの線量計システム開発を行っていく。

[参考文献]
奥野泰希、他、太陽電池を応用した廃炉用高レベル放射線線量計の開発、第66会応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集(2019 東京工業大学 大岡山キャンパス)、9p-W933-9

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