従来のシビアアクシデントコード等の重大事故解析手法は、主に原子炉内での事故進展の把握を考慮して整備されている。そのためSFPの冷却水の損失または水位低下による事故進展把握や、その安全対策としてのスプレイ冷却システム、注水システム等の有効性検討のためには、従来の解析手法をSFPでの事故条件に適用可能な様に改良し、高度化することが重要である。
事故時における原子炉内の環境とSFPの環境との主な違いとしては、原子炉内が主に水蒸気中の環境となるのに対し、SFPは主に空気中の環境となることが挙げられる。これまでの研究では、軽水炉で主に用いられているジルコニウム合金系の燃料被覆管材料が高温で酸化する場合、水蒸気中よりも空気中で、より激しく酸化する傾向があることが知られている。そのためSFP事故解析のためには、従来の水蒸気中での被覆管の酸化モデルではなく、空気中での酸化モデルを構築し、導入することが必要となる。
そのため、当グループでは、熱天秤を用いてSFP事故を考慮した高温の均熱条件における被覆管小型試料の酸化試験を実施し、そのデータに基づいて酸化モデルの構築を行った。また構築した酸化モデルの検証のため、電気炉を適用した装置を用いてSFP事故を模擬した環境、温度履歴、温度勾配を再現した条件における長尺の被覆管試料の酸化試験を行った。そして被覆管表面の酸化層の成長について、酸化試験後の断面観察で得られた厚さのデータと、酸化モデルによる解析結果の比較を行い、酸化モデルの検証を行った。
図1 長尺被覆管酸化試験における温度履歴
図2 酸化試験後の長尺被覆管試料上端近傍の外観写真
図1に500mmの長尺ジルカロイ2被覆管の空気中での酸化試験における温度履歴を示す。凡例は被覆管試料上端からの距離をそれぞれ示している。この温度勾配、温度履歴はこれまでのSFP事故の解析結果で得られた結果を参考に設定している。図2にSFP事故を想定した最低と最高の空気流量の条件で、図1の温度履歴を与えて実施した酸化試験後の試料外観を示す。これらの試料を円周方向に切断し、表面の酸化層断面を観察した結果を図3に示す。表面から見たときに黒く見えた酸化層は、断面で見ると緻密であり、表面から見たときにベージュ色に見えた酸化層は、断面で見ると多孔質で、合金との境界にZrNの窒化物が白く生成している様子が見られた。なお酸化層は表面での色によらず、いずれも単斜晶のZrO2だった。これらの組成分析はレーザーラマン分光で行った。
図3 酸化試験後の長尺被覆管試料の酸化層断面観察結果
図4 酸化試験後の長尺被覆管試料の酸化層厚さ分布(測定値と解析結果
この断面観察で測定した緻密な酸化層の周方向の平均厚さ、多孔質な酸化層の最大厚さ、酸化モデルで計算した酸化層の周方向の平均厚さを、被覆管上端からの距離に対してプロットし、図4に示す。酸化モデルでの計算値は実験で得られた最大の酸化層厚さをほぼ再現できたことから、本研究で構築した酸モデルは適切であることが示された。
この酸化モデルはMAAPやSAMPSON等のシビアアクシデントコードに導入され、SFPの事故解析及び安全対策の有効性検討等に適用されている。
図 は、"Study on Loss-of-Cooling and Loss-of-Coolant Accidents in Spent Fuel Pool, (2) Fuel cladding oxidation", Y. Nemoto, Y..Kaji, T..Kanazawa, K. Nakashima, M. Tojo, Proc. ICONE27, (2019) No. 1345." からの引用です。