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多相多成分詳細熱流動解析コードJUPITER

JUPITER (JAEA Utility Program for Interdisciplinary Thermal-hydraulics Engineering and Research)は、 気体と任意成分の液体及び個体の混ざった流れである「固気液多相多成分流」の挙動を詳細かつ高精度に予測 することを目的としたシミュレーションコードです。過酷事故時に核燃料及び構造物などの溶融及び移行挙動 を経験や簡略化に頼ることなくできる限り実現象に則してシミュレーションをすることができます。溶融現象 に限らず気液二相流及び単相流問題にも対応可能であり、幅広い熱流動現象のシミュレーションを行うことができます。 また、詳細な熱流動シミュレーションに必須である大規模計算にも対応した最先端の数値計算アルゴリズムを 採用しており、世界最速クラスのスーパーコンピュータを用いた超並列計算を行うことができます。
JUPITERによる模擬炉心溶融物移行挙動解析結果可視化例

特徴: Features

超並列計算への対応

原子炉は内部に数mmオーダーの構造物から、数mオーダーの構造物が複雑に配置されています。 このような多岐にわたるスケールの構造物内の熱流動現象のシミュレーションを行うためには、 強力なスーパーコンピュータで十分な性能を発揮できる計算コードである必要があります。 JUPITERは、現在主流となっているMPI及びOpenMPハイブリッド並列手法を適用することにより 世界最速クラスのスーパーコンピュータである「京」を用いた超並列計算にも耐え得る性能を発揮できます。
図1 強スケーリング並列性能

シンプル&高精度な界面捕獲手法の採用

溶融物の移行、蓄積挙動は複雑に変形する自由界面を含む流体現象です。 この現象を正確且つ大規模計算においても十分な性能を保持したままシミュレーションするには、 アルゴリズムが簡単で自由界面を精度よく捕獲できる手法が必要です。JUPITERはこの両方を満たすことができる 先端の界面捕獲手法を用いています。この手法の導入も図1の性能を発揮することができた一因となっています。

任意流体成分の溶融、凝固

原子炉内は核燃料である二酸化ウラン、制御棒やチャンネルボックス等の構造材であるステンレス鋼や炭化 ホウ素といった様々な成分から構成されています。JUPITERはそれら成分の複雑な溶融とその移行挙動、並びに 凝固挙動を機構論的に予測することが可能です。例えば、図のようなペデスタル内部へのコリウムの広がりと蓄積挙動シミュレーション から蓄積したデブリの成分分布などの情報を従来よりも詳細に得ることができます。
図1 強スケーリング並列性能

フレキシブルな入力機能

入力機能として、ユーザー側で球形、楕円形、曲面などを組み合わせた任意の形状を与えることが可能です。 炉内構造物などさらに複雑な形状を入力させたい場合は、CADデータ等から出力されるSTL (STereo Lithography) データをJUPITERのコンバート機能を利用し、入力データとして与えることも可能です。
図1 強スケーリング並列性能

大規模データ可視化への対応

大規模計算により出力される計算結果データは非常に大きくなり、従来のレンダリング手法による可視化ではメモリ やマシンパワー不足により可視化は困難となります。JUPITERでは、非常に大きなデータファイルも効率的に レンダリングすることができる原子力機構システム計算科学センターが開発した粒子ベースボリュームレンダリング PBVR (Particle Based Volume Rendering)による可視化が可能です。さらに、計算を実行しながら可視化できるInsitu可視化機能も実装されています。

仕様: Specifications

TPFIT仕様

解析例: Examples

炉心溶融移行挙動シミュレーション

BWRの炉心内部にある燃料集合体の溶融・移行挙動のシミュレーションを行なっています。 BWRの過酷事故は前例が無く内部調査が難しいことからシミュレーションによる予測が有効です。 本研究では、JUPITERを用いて従来手法よりも機構論的に溶融物の移行挙動を予測することにより、 BWR過酷事故時の炉心溶融物の移行・体積挙動の理解を進めるとともに、デブリの詳細分布 を明らかにすることにより福島第一原子力発電所の廃止措置にも貢献していく予定です。  
動画:燃料集合体内部溶融物移行挙動シミュレーション(17MB)

ペデスタル内部へのコリウム広がり・堆積挙動シミュレーション

原子力発電所の過酷事故では、冷却材の喪失により、高温になった核燃料と周囲の構造物が溶融し、 原子炉格納容器内に移行、蓄積することが想定されます。しかし、溶融し落下した核燃料物質と 構造物の組成分布や、溶融した物質からの核分裂生成物の放出、さらに核燃料の再臨界の可能性 の予測は難しく、過酷事故評価の課題となっています。 本研究では、従来の手法よりも精緻な(現象を物理的/化学的/熱力学的に正しく追い、また、 近似等も極力用いない)数値シミュレーションコードJUPITERを開発しました。JUPITERにより溶融物 のペデスタル底部への蓄積数値シミュレーションを行い、その結果、次のことが推定されました。
  • 溶け落ちた燃料デブリは非常に複雑に分布する。
  • ペデスタル底部での凝固物の温度から代表的な放射性物質であるセシウムとストロンチウムの挙動を推定し、 揮発性が高いセシウムはほぼ全て気体に放出され、凝固物の中に存在しない一方で、揮発性が低いストロンチウムは核燃料成分の中にある。
  • 凝固物の組成分布から、核計算により再臨界の可能性を調べました。その結果、ペデスタル内部に冷却水がない条件では臨界には至らず、 核燃料成分内に水が存在し、且つ核燃料成分が空間的に無限に存在すると仮定した極端な場合を除き再臨界には達しない。
従来よりも詳細な情報を有する本結果は、安全かつ合理的な廃炉作業の実施に貢献することが期待できます。  
動画:コリウム堆積挙動シミュレーション(8MB)

ADS (Accelerated Driven System) ビーム窓周りの詳細熱流動解析

ADSビーム窓周りにおける複雑な乱流場がビーム窓の温度分布ならびにその変動に与える影響は明らかになっていません。 ADS設計においてその影響を把握することはADS実現に向けて重要であると言えます。本研究では、 JUPITERを用いて、種々の流動条件がビーム窓周りの温度場に与える影響を調べることにより、 ADSの実現に向けたシミュレーションを行なっています。  
動画:ADSビーム窓周りの詳細熱流動シミュレーション(5MB)