プレス発表

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バーチャル・リアクター実現に向けた大きな一歩
〜原子炉の炉心設計を加速するシミュレーション・プラットフォーム「JAMPAN」を開発〜

2024.11.26

原子力基礎工学研究センターは、炉心設計コードの妥当性確認のため、複数の物理現象の相互作用の取り扱いを可能とするマルチフィジックス・シミュレーション・プラットフォーム「JAMPAN」 (JAEA Advanced Multi-Physics Analysis platform for Nuclear systems)第1版を開発しました。JAMPANを用いた詳細なマルチフィジックス・シミュレーションにより、実験で得られるデータに相当する詳細なデータが提供できるようになり、バーチャル・リアクター実現に向けた大きな一歩を踏み出しました。

カーボンニュートラルの達成や人類社会のさらなる発展のための宇宙開発などを目的として、小型モジュール炉(SMR)をはじめとする、従来とは大きく異なる原子炉の開発が世界各国で進められています。このような新しい原子炉を含めての原子炉設計に用いられる炉心設計コードの妥当性確認のためには、実験データとの比較が必要不可欠です。しかし、妥当性確認に利用できる実験データは限られており、その拡充が求められていました。特に、中性子輸送や熱流動などの複数の物理現象を同時に考慮した実験は、実施が難しいことからほとんど行われておらず、そのようなデータの提供が世界的に求められています。そこで原子力機構では、長年に渡って独自開発してきた二つの計算コード(中性子輸送計算コードMVPと熱流動計算コードJUPITER)を組み合わせた計算を可能とする、マルチフィジックス・シミュレーション・プラットフォームJAMPANを開発しました。JAMPANを用いたマルチフィジックス・シミュレーションにより、実際の原子炉を計算機上に再現するバーチャル・リアクターの実現や、これまで行われてきた実験に近い詳細なシミュレーションが可能となります。そのため、JAMPANを用いることで、実際の実験では得られなかったマルチフィジックスの実験に相当するデータを得ることが可能となります。JAMPANの解析結果を活用することで、従来の実験の補間のみならず、今までの実験では取得できなかった新たなデータを、炉心設計コードの妥当性確認や炉心設計コードで用いられているモデルの改良に利用することが可能となりました。

今後、既存の軽水炉だけでなく、革新炉などの様々な体系・条件において、JAMPANを用いた詳細なマルチフィジックス・シミュレーションを実施していく予定です。これにより、原子力機構やプラントメーカー等が開発している炉心設計コードの妥当性確認やモデルの改良へ貢献できます。これは炉心設計の信頼性向上や設計品質向上に繋がるものであり、本研究は安全性・経済性向上の両面で原子炉設計に貢献します。

本研究成果は、10月31日に原子力工学分野の国際会議ICONE31の国際会議論文で公開されました。
論文情報:https://doi.org/10.1115/ICONE31-135974

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線量評価がより正確に! 日本人のポリゴン型詳細人体モデルを開発
〜人体モデルのデータを無償公開〜

2024.10.25

原子力基礎工学研究センターは、放射線防護に関する最新の科学的知見に基づき、標準成人日本人の体格特性を反映した被ばく線量評価を行うことを目的として、成人男性(JPM)及び女性(JPF)のポリゴン型人体モデルを新たに開発しました。

放射線による被ばく線量を正確に評価するためには、体内における放射線の挙動を詳細に考慮することが必要です。そのため、PHITSコード等のモンテカルロシミュレーション計算コードと人体モデルを組み合わせた計算方法は、被ばく線量評価にとって極めて有用となります。ICRPは、最新の科学的知見に基づき、放射線感受性が高く、ミクロサイズで複雑な構造を持つ幹細胞領域(水晶体、皮膚等)の被ばく線量を評価する必要があることを提言しました。しかし、現在、線量評価に用いられている成人日本人の人体モデルには、幹細胞領域が定義されていません。そこで原子力基礎工学研究センターでは、物体の形状を柔軟に表現可能なポリゴン技術を用いて、全身の臓器や組織の形状を再現したポリゴンメッシュ型人体モデル(JPM、JPF)を新たに開発しました。ポリゴン技術の採用により、JPM及びJPFの臓器及び組織内にミクロサイズで複雑な幹細胞領域の構造を正確に定義することに成功しました。加えて、JPMとJPFは、標準的な成人日本人の体格と臓器質量を有しています。これにより、日本人の体格特性を考慮しつつ、線量管理に必要となる、様々な被ばく状況における水晶体の等価線量を正確に評価することが可能になりました。現在、JPM及びJPFの姿勢や体格を変化させるための人体モデル変形技術の開発を進めています。今後、JPM及びJPFは、開発中の人体モデル変形技術と組み合わせることで、個人の姿勢や体格の特性を考慮した被ばく線量評価へ活用する予定です。

JPM及びJPFモデルの電子データは、下記のGitHub上のwebページで公開され、同webページへアクセスすることにより無償でダウンロードして入手することが可能です。
URL: https://github.com/JapanesePolygonPhantom/JPM-JPF-Phantom

本研究成果は、国際科学誌「PLOS ONE」に2024年10月24日付けでオンライン掲載されました。
論文情報:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0309753

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ナノテクノロジーで排ガス浄化助触媒に新しい未来を
〜「悪魔のつくった表面」が粒子の大きさと集まり方を操る〜

2024.07.10

原子力基礎工学研究センターは、先端基礎研究センター、計算科学センター、東京大学、山形大学、北海道大学との複数の研究機関との共同研究により、排ガス浄化触媒の製造技術を高度化することを目的として、セラミックス粒子の自己組織化作用を詳細に調べたところ、粒子の表面に働く力を利用することで簡便に粒子の大きさを制御できる集積技術を発見しました。

触媒製造過程では、粒子の大きさを均一に制御することが重要ですが、排ガス助触媒に用いられるセラミックス材料は、その制御が難しいことが課題でした。そこで本研究では、セラミックス粒子が自然に構造を形成する「自己組織化」に着目し、自己組織化における粒子表面の役割を、中性子線・X線と顕微鏡技術により分析しました。その結果、粒子表面に纏わりつくイオンの違いによって、自己組織化後の粒子表面の性質が変化し、その構造に大きな違いを生むことが分かりました。さらに結合の仕方を集積ナノテクノロジーにより制御すると、2次粒子が折り重なって集まる高次構造をつくることが分かりました。この性質を利用することで簡便にセラミックス粒子の大きさを制御することが可能になるため、排ガス浄化助触媒の製造時における材料使用量の低減や、新しい機能性材料開発にも応用が期待されます。

本研究成果は、Nature Publishing Groupの国際学術誌「Communications Chemistry」のオンライン公開版(2024年6月12日(現地時間))に掲載されました。
論文情報:https://www.nature.com/articles/s42004-024-01199-y

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超伝導技術で可視化する微量ウランの真の分布状態
〜環境中のさまざまな微量元素の移行挙動把握への期待〜

2024.04.11

原子力基礎工学研究センターは、立教大学、東京大学、高輝度光科学研究センターなどの複数の研究機関との共同研究により、環境中のウラン(U)の移行挙動を把握することを目的として、世界で初めて超伝導転移端検出器(TES)をマイクロビームX線による蛍光X線分光測定時の検出器に利用し、従来不可能だった環境中の微量のUの分布状態を正確に把握することに成功しました。

原子力発電用燃料として用いられるウラン(U)の環境中での移行挙動の把握は、放射性廃棄物の埋設処分時の安全性評価において重要です。環境試料中のUの検出には、試料に含まれる多くの元素の信号の中から、微量のUの信号のみを分別する新たな分析技術が望まれていました。そこで、高いエネルギー分解能で特定のエネルギーの信号を検出できる「TES」をX線分光用の検出器として用いることにより、従来の半導体検出器では他の元素の信号により埋もれてしまって見えなかった、微弱なUの信号を検出することに成功しました。この手法を、黒雲母に保持されたUの分析に適用し、環境中の黒雲母の風化した部位にUが濃集して保持されていることを明らかにし、黒雲母にUが濃集するメカニズムの一端を解明することができました。本研究により、環境試料中の超微量元素をマイクロメートルサイズの空間分解能で分析でき、元素の移行挙動のメカニズムを原子・分子スケールで解き明かすことで、Uだけでなくさまざまな元素の環境移行挙動研究への展開も期待されます。

本研究成果は、英国王立化学会発行の「Analyst」誌に2024年4月9日付でオンライン掲載されました。
論文情報:https://doi.org/10.1039/D4AN00059E

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耐火ハイエントロピー合金の脆性と延性を支配する因子の解明
〜多様な元素が拓く優れた合金の開発〜

2024.03.07

原子力基礎工学研究センターは、京都大学との共同研究で新しい耐火・耐熱合金の開発を目的として、耐火ハイエントロピー合金(RHEA)が示す力学特性と機構を実験と原子シミュレーションにより明らかにしました。

エンジンや発電プラントの効率を高めるためには運転温度を上げる必要がありますが、タービンブレードで使用される合金では耐熱性能が限界にきています。そこで、高い融点を持つRHEAは超高温用途の新しい合金候補として期待されていますが、RHEAの多くは室温で脆いという欠点が知られていました。これまで、TiZrHfNbTa合金(RHEA-Tiとする)とVNbMoTaW合金(RHEA-Vとする)という2つの代表的な合金が広く研究されてきましたが、両者が示す強さや延びの違いの本質は明らかになっていませんでした。本研究では、優れた合金設計の指針を得るため、温度変化を考慮した詳細な実験と原子レベルのシミュレーションにより検討しました。その結果、RHEA-Tiは室温以下の低温でも優れた強度と延性を示すことが示されるとともに、原子シミュレーションによって、RHEA-Tiで観察される高い強度と低温における延びは、第IV族元素添加による電子の結合状態に基づく効果によってもたらされることが明らかになりました。以上の結果は、戦略的な元素設計が合金の機能制御に大きな威力を発揮することを示しています。本知見を生かした元素戦略に基づく合金設計により、次世代の高温構造用途に向けた新しい合金の開発が期待されます。

本研究成果は、英国の学術誌「Nature Communications(https://doi.org/10.1038/s41467-024-45639-8)」に2024年2月24日付でオンライン掲載されました。

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