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「分析化学」論文賞を受賞

2025.09.30


原子力基礎工学研究センター原子力化学研究グループの柳澤華代研究員は、福島大学とともに行った研究により、日本分析化学会「分析化学」誌に掲載された論文「罰則項付き非対称最小二乗法によるオンライン同位体希釈-レーザーアブレーション-誘導結合プラズマ質量分析のフローピーク検出」に関して、「分析化学」論文賞を受賞しました。

近年、機器分析の高度化に伴い、膨大な測定データの高速処理が求められています。例えば、レーザーアブレーション-誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)は、レーザーを照射することで固体試料表面の元素組成を可視化(マッピング)することができるため、半導体の不純物評価、生体の薬物動態、鉱物の特徴付けなど幅広い分析で利用されていますが、その一方で、測定対象物が多くなるほどデータ量も相乗的に増えるため、膨大なデータの処理に多くの時間と労力を要します。本論文では、罰則項付き非対称最小二乗法を応用した自動処理プログラムを開発し、LA-ICP-MSで得られたマッピングデータの処理に適用しました。その結果、約20時間を要した手動処理をわずか約30秒で完了し、大幅な作業時間の短縮を実現しました。開発したプログラムはLA-ICP-MSのみならず、さまざまな機器分析で得られるデータの高速処理法として展開可能であり、分析化学への貢献が期待されます。

【受賞論文】https://doi.org/10.2116/bunsekikagaku.73.515

令和7年度核データ部会賞奨励賞を受賞

2025.09.25


原子力基礎工学研究センター核データ研究グループの遠藤駿典研究員は、「高強度パルス中性子源を用いた中性子捕獲ガンマ線の円偏光度測定」に関して令和7年度核データ部会賞奨励賞を受賞しました。対象となった論文は「Circular polarization measurement for individual gamma rays in capture reactions with intense pulsed neutrons」として、European Physical Journal Aに掲載されました。

共鳴のスピンは核データライブラリに掲載されている原子核の基本的な物理量の一つですが、技術的に困難であるためこれまで測定は限られていました。核データライブラリにおいてもランダムに割り振られる場合があるなど、正確性に欠けたものとなっています。受賞者らは中性子捕獲反応により生じるガンマ線の円偏光度が共鳴(複合核)のスピン及び終状態のスピンに依存していることに着目し、ガンマ線円偏光測定装置(ガンマ線ポラリメータ)を新たに開発しました。J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)のビームラインANNRIにおいて、開発した装置を用いてパルス中性子源による中性子捕獲反応で生じるガンマ線の円偏光度の測定に初めて成功しました。本研究により開発されたポラリメータを用いて共鳴のスピンの決定が進むことで、核データの信頼性向上につながるとともに、原子核物理研究への貢献が期待されます。

【受賞論文】https://doi.org/10.1140/epja/s10050-024-01392-6

JNST Most Popular Article Awardを受賞

2025.09.24


核データ研究グループの岩本修グループリーダーらは日本原子力学会英文誌(JNST)に投稿した論文「Japanese evaluated nuclear data library version 5: JENDL-5」(J. Nucl. Sci. Technol., Vol. 60, 1-60 (2023))により、令和7年9月11日にJNST Most Popular Article Awardを受賞しました。

核データライブラリは放射線と原子核の反応の基礎データを収録したデータベースで、原子炉を含む様々な放射線のシミュレーション計算などに利用されます。JENDL-5は、J-PARC等で測定された実験データや最新の核反応理論モデルを用いて前バージョンのJENDL-4.0から中性子反応データの核種数を2倍近い795核種に増やしました。これらのデータは天然存在核種や半減期1日以上の放射性核種をほぼ網羅しており、様々な核種を含む物質に対する利用が可能です。また、用途別に別途公開してきた放射化断面積や高エネルギー核データや陽子、重陽子、アルファ粒子、光子などの原子核反応データを集約することで、一貫性や利便性を向上させました。更に主要な利用先である原子炉の核特性に関して幅広いベンチマークテストを実施し改良を加えており、JENDL-4.0から予測性能が改善しています。

【受賞論文】https://doi.org/10.1080/00223131.2022.2141903

第57回日本原子力学会賞論文賞を受賞

2025.09.24


原子力基礎工学研究センター核データ研究グループの岩本修グループリーダーは、国際原子力機関ともに行った研究により、第 57 回(2024年度)日本原子力学会賞論文賞を受賞しました。対象となった論文は「EXFOR-based simultaneous evaluation of neutron-induced uranium and plutonium fission cross sections for JENDL-5」として、Journal of Nuclear Science and Technologyに掲載されました。

JENDL-5は日本で開発している核データライブラリの最新版です。核データライブラリは、核データを放射線シミュレーション計算の入力データとして利用可能な形式にまとめたものです。受賞論文はJENDL-5の開発にあたり,主要アクチニドであるウランおよびプルトニウム6核種の高速中性子に対する核分裂断面積について、国際実験核反応データライブラリEXFOR に基づき評価した結果を報告したものです。EXFOR に格納されている多くのデータから信頼性が高いデータを選定し、一般化最小二乗法により評価値を得ました。評価値にあたり、前バージョンのJENDL-4.0の上限エネルギー20 MeVから200 MeVへ大幅に拡張を図りました。小型炉心の中性子実効増倍率の測定に関して、本成果を用いた計算結果はJENDL-4.0より改善しました。

【受賞論文】https://doi.org/10.1080/00223131.2022.2030259

腐食防食学会2025年度進歩賞を受賞

2025.07.16


防食材料技術開発グループの青山高士研究員が、「ステンレス鋼の局部腐食に及ぼす放射線核種影響と防食技術の研究」に関して、腐食防食学会2025年度進歩賞を受賞しました。

本賞は、腐食防食分野において顕著な研究成果を挙げ、学術の進展に寄与した研究者に贈られるものです。青山研究員は、銅イオンキレート錯体を用いたステンレス鋼のすき間腐食抑制技術を開発し、ステンレス鋼の活性溶解を抑制するメカニズムの解明に取り組んできました。

さらに近年では、福島第一原子力発電所の廃炉過程における構造体腐食を想定し、放射線(特にβ線)がステンレス鋼の腐食に与える影響についての研究を進めています。これらの成果は、腐食防食学に新たな知見をもたらすものであり、学術的貢献が高く評価されました。

令和6年度日本金属学会論文賞を受賞

2025.05.14


原子力基礎工学研究センターは、人工ニューラルネットワークポテンシャルを活用した材料科学研究の成果として、原子応力計算を多種多様な原子系に適用する可能性を示し、本研究成果により令和6年度日本金属学会論文賞を受賞しました。

離散系における各原子の領域に対する応力(原子応力)は、熱流束、亀裂伝播、ボイド成長などの複雑なプロセスを評価するために重要な量です。連続体に対する局所応力はIrvin-Kirkwoodによって与えられますが、この方法では原子応力の定義が不明確であり原子応力への適応は確立されていません。系のモーメントの釣り合い満たすためには、原子ペアに展開される相互作用(ペアフォース)を用いる必要があるため、原子間相互作用に応じて様々な定式化が必要になります。人工ニューラルネットワークポテンシャル(ANNポテンシャル)は、その精度の高さから近年注目されていますが、これまでANNポテンシャルの枠組みにおける原子応力の定式化はなされていませんでした。本論文では、ANNポテンシャルに適した原子応力の厳密な定式化を導出しました。具体的には、広く用いられている2種類の記述子(ベーラー・パリネロ関数とチェビシェフ多項式)を対象に、ペアフォースへの寄与を記述しました。さらにモーメントの釣り合いを保つために必要な要件を提示し、広く用いられている古典分子動力学コード「LAMMPS」で使用できるソフトウェアに実装しました。

これにより、ANNポテンシャルを用いた原子応力計算を、多種多様な原子系に適用することが可能になりました。検証のため、FeとAlの低ミラー指数表面近傍の応力分布を計算して検証した結果、表面に垂直な方向の応力分布が振動を示すことが示されました。このような振動は、第一原理計算から電荷分布のフリーデル型振動と関連することが知られていましたが、従来のEAMポテンシャルでは再現できないという問題がありました。これに対して、本研究のANNポテンシャルを用いた原子応力では、表面の応力振動を再現できることがわかりました。これにより、ANNポテンシャルが関数系で与えられるという古典的な定式にもかかわらず電子に由来した物性を捉えることが可能であることを示しました。

【受賞論文】https://doi.org/10.2320/matertrans.MT-M2023093

令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞 開発部門を受賞

2025.04.30


原子力基礎工学研究センター核データ研究グループの岩本修グループリーダー、岩本信之研究主幹、原子力基礎工学研究センター炉物理・熱流動研究グループの多田健一研究主幹が「評価済核データライブラリJENDLの開発」に関して「令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞 開発部門」を受賞しました。

評価済核データライブラリは原子核反応が関与する数値シミュレーション技術の中核となるデータベースです。これまでのライブラリは、GXに向けた新型炉開発や放射性廃棄物の処理処分、加速器による放射線利用などの多様なニーズに応える上で、完備性や信頼性に課題がありました。本開発では、独自の原子核反応モデル計算コードを構築し、評価に利用することで、様々な放射線と原子核との反応データの信頼性を高めました。中性子入射反応では半減期1日以上の核種をほぼ網羅するなど、データの完備性を高めると共に、原子炉核計算における解析精度を向上させました。これにより、原子力を始めとする医学、宇宙、基礎科学などの幅広い分野における研究開発での利用が可能になると共に、プルトニウムを含む炉心や高速炉の臨界性に対する予測精度が大幅に改善するなど、放射線に関する数値シミュレーションの信頼性が向上しました。本成果は、カーボンニュートラルへ向けた新たな原子炉の開発や加速器を用いた多様な放射線利用の促進に寄与するものと期待されます。

日本分析化学会関東支部2024年度新世紀新人賞を受賞

2025.01.27


原子力基礎工学研究センター原子力化学研究グループの柳澤華代研究員が、「流れ分析を組み合わせたICP-MSによる極微量の元素及び放射性核種の分析」に関して、日本分析化学会関東支部2024年度新世紀新人賞を受賞しました。

誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)は食品、環境、半導体、材料化学、医薬学、生化学、地球惑星科学などさまざまな分野に普及しており、原子力分野でも多くの放射性核種の分析に利用されています。しかし、従来の分析法は前処理操作が煩雑で、分析者の熟練が必要であることに加え、放射性標準試料を扱うことによる汚染や被ばくのリスクが課題となっていました。本研究では、流れ分析を用いた自動前処理システムと同位体希釈法を活用した、標準試料を必要としない自動分析法を開発し、従来法では測定が難しかったSr-90の分析や微量元素の定量マッピング分析にも本法が適用できることを実証しました。これらの成果は、ICP-MSによる微量元素及び放射性核種の分析を簡便、迅速、スキルフリーで行えるようにし、かつ、安全性の向上にも寄与するものです。これにより、福島第一原子力発電所の廃止措置や放射性廃棄物の処理・処分、環境放射能監視などの現場で役立つ分析技術として、原子力安全の向上と持続可能な社会の実現への貢献が期待されます。