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2025.05.14
原子力基礎工学研究センターは、人工ニューラルネットワークポテンシャルを活用した材料科学研究の成果として、原子応力計算を多種多様な原子系に適用する可能性を示し、本研究成果により令和6年度日本金属学会論文賞を受賞しました。
離散系における各原子の領域に対する応力(原子応力)は、熱流束、亀裂伝播、ボイド成長などの複雑なプロセスを評価するために重要な量です。連続体に対する局所応力はIrvin-Kirkwoodによって与えられますが、この方法では原子応力の定義が不明確であり原子応力への適応は確立されていません。系のモーメントの釣り合い満たすためには、原子ペアに展開される相互作用(ペアフォース)を用いる必要があるため、原子間相互作用に応じて様々な定式化が必要になります。人工ニューラルネットワークポテンシャル(ANNポテンシャル)は、その精度の高さから近年注目されていますが、これまでANNポテンシャルの枠組みにおける原子応力の定式化はなされていませんでした。本論文では、ANNポテンシャルに適した原子応力の厳密な定式化を導出しました。具体的には、広く用いられている2種類の記述子(ベーラー・パリネロ関数とチェビシェフ多項式)を対象に、ペアフォースへの寄与を記述しました。さらにモーメントの釣り合いを保つために必要な要件を提示し、広く用いられている古典分子動力学コード「LAMMPS」で使用できるソフトウェアに実装しました。
これにより、ANNポテンシャルを用いた原子応力計算を、多種多様な原子系に適用することが可能になりました。検証のため、FeとAlの低ミラー指数表面近傍の応力分布を計算して検証した結果、表面に垂直な方向の応力分布が振動を示すことが示されました。このような振動は、第一原理計算から電荷分布のフリーデル型振動と関連することが知られていましたが、従来のEAMポテンシャルでは再現できないという問題がありました。これに対して、本研究のANNポテンシャルを用いた原子応力では、表面の応力振動を再現できることがわかりました。これにより、ANNポテンシャルが関数系で与えられるという古典的な定式にもかかわらず電子に由来した物性を捉えることが可能であることを示しました。
【受賞論文】https://doi.org/10.2320/matertrans.MT-M2023093
2025.04.30
原子力基礎工学研究センター核データ研究グループの岩本修グループリーダー、岩本信之研究主幹、原子力基礎工学研究センター炉物理・熱流動研究グループの多田健一研究主幹が「評価済核データライブラリJENDLの開発」に関して「令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞 開発部門」を受賞しました。
評価済核データライブラリは原子核反応が関与する数値シミュレーション技術の中核となるデータベースです。これまでのライブラリは、GXに向けた新型炉開発や放射性廃棄物の処理処分、加速器による放射線利用などの多様なニーズに応える上で、完備性や信頼性に課題がありました。本開発では、独自の原子核反応モデル計算コードを構築し、評価に利用することで、様々な放射線と原子核との反応データの信頼性を高めました。中性子入射反応では半減期1日以上の核種をほぼ網羅するなど、データの完備性を高めると共に、原子炉核計算における解析精度を向上させました。これにより、原子力を始めとする医学、宇宙、基礎科学などの幅広い分野における研究開発での利用が可能になると共に、プルトニウムを含む炉心や高速炉の臨界性に対する予測精度が大幅に改善するなど、放射線に関する数値シミュレーションの信頼性が向上しました。本成果は、カーボンニュートラルへ向けた新たな原子炉の開発や加速器を用いた多様な放射線利用の促進に寄与するものと期待されます。
2025.01.27
原子力基礎工学研究センター原子力化学研究グループの柳澤華代研究員が、「流れ分析を組み合わせたICP-MSによる極微量の元素及び放射性核種の分析」に関して、日本分析化学会関東支部2024年度新世紀新人賞を受賞しました。
誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)は食品、環境、半導体、材料化学、医薬学、生化学、地球惑星科学などさまざまな分野に普及しており、原子力分野でも多くの放射性核種の分析に利用されています。しかし、従来の分析法は前処理操作が煩雑で、分析者の熟練が必要であることに加え、放射性標準試料を扱うことによる汚染や被ばくのリスクが課題となっていました。本研究では、流れ分析を用いた自動前処理システムと同位体希釈法を活用した、標準試料を必要としない自動分析法を開発し、従来法では測定が難しかったSr-90の分析や微量元素の定量マッピング分析にも本法が適用できることを実証しました。これらの成果は、ICP-MSによる微量元素及び放射性核種の分析を簡便、迅速、スキルフリーで行えるようにし、かつ、安全性の向上にも寄与するものです。これにより、福島第一原子力発電所の廃止措置や放射性廃棄物の処理・処分、環境放射能監視などの現場で役立つ分析技術として、原子力安全の向上と持続可能な社会の実現への貢献が期待されます。