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2024.10.18
原子力化学研究グループの 森井志織 研究系職員が、日本放射化学会第68回討論会のポスターセッションにおいて若手優秀発表賞を受賞しました。(2024年9月25日付)
題目:「メスバウア―分光法を用いた還元的環境における粘土鉱物中のFeの酸化状態と構造の分析」
粘土鉱物は、放射性廃棄物地層処分時に放射性核種を吸着して環境中への拡散を防ぐために利用されますが、粘土鉱物構造中のFeの酸化状態は拡散抑制の性能に影響を及ぼす可能性があります。本発表では、地下環境における粘土鉱物への放射性核種の吸着挙動を詳細に明らかにするために、還元環境における粘土鉱物中のFeの酸化状態や配位構造を調べた結果を報告しました。標準水素電極電位で-0.5 Vの電圧を印加して電解した粘土鉱物構造中のFeの酸化状態と配位構造をメスバウアー分光法により調べたところ、粘土鉱物八面体構造中のFeの一部が3価から2価に還元されたことが分かりました。本研究で明らかにした粘土鉱物に含まれるFeの化学特性は、基礎知見として放射性廃棄物処分の信頼性向上に貢献します。
2024.10.17
原子力化学研究グループの 植野雄大 研究員が、日本放射化学会第68回討論会のポスターセッションにおいて若手優秀発表賞を受賞しました。(2024年9月25日付)
題目:「非水溶媒系中の塩化物イオン濃度が塩化ウラン (IV) の酸化還元特性に与える影響」
電解液中の金属イオンの酸化還元特性は、レドックスキャパシタや化学電池といった電気化学デバイスへの応用に向けて重要なファクターとなります。
本研究では、非水溶媒中における塩化ウラン (IV) の酸化還元特性に着目し、塩化物イオンの添加による影響を電気化学測定と分光測定により評価しました。結果として、塩化ウラン (IV) に対して過剰な量の塩化物イオンを添加した場合、六配位のウラン (IV) 塩化物錯体が安定化することを見出しました。さらに、塩化物イオン濃度の増大に伴って塩化ウラン (IV) の酸化還元反応速度が向上したことから、過剰な塩化物イオンの存在が塩化ウラン (IV) の電極での反応の進行に有利に働くことが示唆されました。これらの知見は、新たな電気化学デバイスの実現に向けた設計指針の構築への貢献が期待できます。
2024.10.17
原子力基礎工学研究センター原子力化学研究グループの北村剛将特別研究生が、2024年9月6日第67回放射線化学討論会(広島大学)でポスター発表を行い、優秀発表賞を受賞しました。
放射線は工業や医療をはじめ、幅広い分野で材料の照射や改質、殺菌などに活用されています。そのような放射線場において、対象試料がどの程度放射線にさらされたかを評価するためには線量管理が欠かせません。現在、放射線照射施設では簡易的な化学線量計を用いて線量管理を行っていますが、既存の線量計は主に10 Gy以上の高線量の評価を対象としており、数Gy、あるいはmGyオーダーの低線量域を精度よく測定することは技術的に難しいとされています。そこで、低線量域の精確な線量評価を可能とする新しい固体線量計の開発に取り組んでいます。線量計の材料を選ぶ上で注目したのは、放射線照射によって歯のエナメル質内に生成する長寿命の炭酸ラジカルです。放射線照射によって生成する炭酸ラジカル量を指標として、その歯が形成されてから現在までの被ばく線量を推定することができます。本研究では、歯のエナメル質の主成分であるハイドロキシアパタイトを基材とし、60Coガンマ線照射によって生成した炭酸ラジカルを電子スピン共鳴装置で測定して線量評価の実証実験を行ったところ、100 mGyから数kGyにわたる幅広い線量域の線量評価に成功しました。この新しい線量計は、福島第一原子力発電所事故などにおける低線量被ばくの影響再現をはじめ、工業・医療分野など、多岐にわたる分野での線量管理への応用が期待されます。
2024.05.21
原子力基礎工学研究センター核データ研究グループの岩本修グループリーダー、岩本信之研究主幹、炉物理・熱流動研究グループの多田健一研究副主幹は、京都大学、東京工業大学、国際原子力機関、北海道大学、量子科学技術研究開発機構とともに行った評価済核データライブラリJENDL-5の開発において、第56回日本原子力学会賞特賞・技術賞を受賞しました。
核データライブラリは放射線と原子核の反応のしやすさなどについてのデータを収録したデータベースで、原子炉を含む様々な放射線のシミュレーション計算などに利用されます。JENDL-5は、J-PARC等で測定された実験データや最新の核反応理論モデルを用いて前版のJENDL-4.0から中性子反応データの核種数を2倍近い795核種に増やしました。これらのデータは天然存在核種や半減期1日以上の放射性核種をほぼ網羅しており、様々な核種を含む物質に対する利用が可能です。また、用途別に別途公開してきた放射化断面積や高エネルギー核データ、陽子、重陽子、アルファ粒子、光子などの原子核反応データを集約することで、一貫性や利便性が向上しています。更に主要な利用先である原子炉の核特性に関して幅広いベンチマークテストを実施し改良を加えており、JENDL-4.0から予測性能が改善しています。
【JENDL-5公開ページ】 https://wwwndc.jaea.go.jp/jendl/j5/j5_J.html
【JENDL-5開発論文】https://doi.org/10.1080/00223131.2022.2141903
2024.05.17
原子力基礎工学研究センター燃料高温科学研究グループのアフィカ・モハマド研究員が、2024年3月27日大阪の近畿大学において、第56回日本原子力学会奨励賞を受賞した。この賞は、原子力分野への貢献が評価された若手研究者に授与されるもので、受賞対象となった成果は「Chemical interaction between Sr vapor species and nuclear reactor core structure」として、Journal of Nuclear Science and Technologyに掲載されました。
主要な放射線源の一つであるストロンチウム(Sr)は、難揮発性のSr化合物を形成すると想定されていたため、その大部分は燃料に随伴して燃料デブリ内に残存すると考えられていました。そのため、福島第一原子力発電所(1F)において、燃料デブリ内に存在するSrの水への浸出が主な放出経路と考えられていたが、ガレキ試料や土壌への付着は、水相を介した放出のみでは説明できませんでした。本成果は、1F事故で行われた海水注入条件でSrが燃料から放出され得ること、原子炉炉心構造材との気相-固相反応により固着することを明らかにし、その化学反応の同定したものです。これにより、炉内におけるSrのふるまい、分布や性状の推測に資する基礎的な知見として役立つことが期待され、公衆被ばく評価や1F廃炉作業における安全対策への貢献が期待されます。
【受賞論文】
https://doi.org/10.1080/00223131.2022.2092227
2024.05.10
原子力基礎工学研究センター原子力センシング研究の米田政夫研究主幹、藤暢輔グループリーダーは、警察庁科学警察研究所及び京都大学とともに行った研究において、第56回日本原子力学会賞論文賞を受賞しました。受賞対象となった論文は、「Development of a water Cherenkov neutron detector for the active rotation method and demonstration of nuclear material detection (2022)」です。
空港等の運輸関連施設では、荷物に隠された核物質を検知する必要があります。核物質検知装置には様々なタイプがあり、対象物に放射線を照射して調べるアクティブ装置は最も高性能である一方で、装置自体が高価かつ大型になるという課題があります。そこで、低コストで可搬性を有するアクティブ装置を開発するため、Cf-252などの中性子線源を回転させることで疑似的なパルス(中性子の強弱)を生み出し、それを対象物に照射して中性子束の変化を調べることで核物質を高感度に検知する新しいアクティブ装置(回転照射装置)を考案し、原理実証しました。しかし、その原理実証においては、中性子検出器として高価なHe-3検出器を多数用いており、低コスト化のためには新たな中性子検出器を開発する必要がありました。本研究では、安価な水を用いることで、He-3検出器の1/10以下の価格で、4倍以上の中性子検出効率を持つ水チェレンコフ中性子検出器(WCND)を開発しました。また、開発したWCNDを用いて、回転照射装置による核物質検知試験を実施したところ、短時間(15分)で少量の核物質(U-235量56.7g)を検知することに成功しました。
【受賞論文】
https://doi.org/10.1080/00223131.2022.2143449
2024.05.07
原子力基礎工学研究センターの佐藤達彦研究主席、経営企画部の岩元洋介研究主席、原子力基礎工学研究センター放射線挙動解析研究グループの橋本慎太郎研究副主幹、古田琢哉研究主幹、小川達彦研究副主幹が「汎用放射線挙動解析コードPHITSの開発」に関して「令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞 開発部門」を受賞しました。
放射線挙動解析コードの利用目的は、加速器設計、医学物理・放射線防護研究、宇宙線研究、物質・生命科学、炉心設計など多岐に渡ります。従来、国内外において様々な放射線挙動解析コードが開発されてきましたが、汎用的かつ簡便に利用できる国産コードはありませんでした。本開発では、主に国内で開発された放射線挙動解析に関わる様々な基盤技術と独自に開発・改良したモデルなどを組み合わせ、任意の放射線に対応した初の国産汎用放射線挙動解析コードPHITSを完成させました。また,オンラインや国内外で対面式講習会などを積極的に開催してコードを幅広い分野に普及させ,様々なニーズに応えることでその性能を更に向上させました。本開発により、様々な場面での放射線挙動解析が簡便かつ精度よく可能となり、放射線施設の建設費削減、ホウ素中性子捕捉療法の治療計画システムの実現、住民の生活環境改善を含む福島復興支援、日本の航空会社や宇宙航空研究開発機構の宇宙線被ばく線量管理などに繋がりました。現在PHITSは、世界76カ国で約1万人の研究者や技術者に利用され、国内外の放射線関連研究や産業の活性化に寄与しています。
https://phits.jaea.go.jp
2024.05.07
放射線挙動解析研究グループの岩元洋介研究主席らが日本原子力学会英文誌(JNST)に投稿した論文「Benchmark study of the recent version of the PHITS code」(J. Nucl. Sci. Technol., Vol. 54, 617-635 (2017) )が、令和6年3月27日にJNST 2023年度最多引用数論文賞を受賞しました。
汎用放射線挙動解析コードPHITSは、原子力機構、高度情報科学技術研究機構、高エネルギー加速器研究機構などと共同で開発を進めている多目的のモンテカルロ計算コードです。本コードは、あらゆる物質中での様々な放射線のふるまいを核反応モデルや核データなどを用いて再現でき、放射線施設の設計、医学物理計算、放射線防護研究、宇宙線・地球惑星科学など様々な分野の粒子輸送シミュレーションに利用されています。
受賞者らは、様々な分野で利用されるPHITSの信頼性検証を目的として、核反応による粒子生成断面積、中性子輸送計算、光子や電子の散乱等の種々のケースに対する包括的なベンチマーク計算を実施しました。ベンチマーク計算の結果、PHITSによる計算結果は実験値を概ね再現しました。一方、エネルギー100 MeV未満の粒子入射反応による粒子生成、陽子とリチウムの衝突により生成される中性子量について、モデルの取扱の問題から実験値を再現しない場合があり、今後のPHITSの改善に対する重要な指針を得ることができました。
全てのベンチマーク計算の結果は、インターネットを介して公開され、様々な分野に応じたPHITSの信頼性の目安として、世界中のユーザーに広く活用されています。本成果は下記のURLからダウンロード可能です。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00223131.2017.1297742
2024.05.07
原子力基礎工学研究センター環境動態研究グループの寺田宏明マネージャー、都築克紀技術主幹、門脇正尚研究副主幹、原子力基礎工学研究センターの永井晴康副センター長が、「大気拡散データベースシステムWSPEEDI-DB」に対し、令和6年3月27日に第56回日本原子力学会賞技術賞を受賞しました。
原子力機構では、福島第一原子力発電所事故に対して、世界版緊急時環境線量情報予測システム第2版(WSPEEDI-II)を用いた大気放出量推定と大気拡散過程の解明に取り組んできました。しかしながら、詳細で複雑なWSPEEDI-IIの計算モデルは計算時間を要するため、さまざまな条件の計算結果を比較検討するには難がありました。そこで、計算を迅速化し、計算や解析を簡便に行うためのインターフェイスを換装することで、新たに大気拡散データベースシステム(WSPEEDI-DB)を開発しました。
WSPEEDI-DBでは、新規開発した計算手法により、特定の放出点を対象とした拡散計算を自動実行して計算出力のデータベース(拡散計算DB)を事前作成しておくことで、設定した放出条件の予測結果を即座に得ることが可能です。また、本計算手法を基盤とした関連技術として、拡散計算DBと多様な環境モニタリングデータの統計解析により緊急時に入手困難な放出源情報を推定する手法や、過去の長期間の拡散計算DBを教師データとした機械学習により従来手法では困難であった将来の予測結果の不確実性を評価する手法を開発し、機能拡張を図りました。
これまでの活用例としては、島根原子力発電所周辺のモニタリングポスト配置の妥当性評価に適用し、防災計画の実効性向上に貢献可能な技術であることを示しました。福島第一原子力発電所事故に対しては、多様な環境測定値を用いて放出源情報を最適化し、環境中放射性核種の時間空間分布を再構築することで、環境省や国連の科学委員会UNSCEARによる被ばく線量評価の精緻化に貢献しました。また、国外事象への対応として、北朝鮮による地下核実験に対する専用の自動計算システムが原子力規制庁のシステムとして運用されています。
WSPEEDI-DBの詳細については、こちらのWebサイトもご参照下さい。