プレス発表

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電子機器の信頼性評価の迅速化に光明
〜様々な中性子施設で半導体ソフトエラー評価を可能にする技術を開発〜

2023.06.07

原子力基礎工学研究センターは、量子アプリ共創コンソーシアム(略称QiSS)の枠組みで、京都大学、京都工芸繊維大学、九州大学、大阪大学、株式会社ソシオネクスト、HIREC株式会社、株式会社日立製作所と協力して、任意の中性子源による1つの測定結果とシミュレーションを組み合わせて地上ソフトエラー率を求める手法を開発しました。

自動運転や介護ロボットの実用化が期待される中、コンピュータの中核をなす半導体デバイスの信頼性確保がより重要となっています。一方、地上に降り注ぐ二次宇宙線の中性子によって半導体デバイスの一時的な誤動作(ソフトエラー)が生じることが知られています。中性子を遮蔽することは困難なため、社会の安心・安全を確保する上で、地上でのソフトエラーの発生頻度(地上ソフトエラー率)の把握が不可欠です。地上ソフトエラー率は、地上の宇宙線環境を再現する特殊な中性子源を用いた実験で評価する方法が一般的ですが、そのような中性子源は世界に5つ程度しかなく、高まる地上ソフトエラー率評価の需要を満たすには限界がありました。 そこで本研究では、ソフトエラー率の中性子エネルギー依存性およびノイズ電荷量依存性をシミュレーションで求め、任意の中性子源による1つの測定結果からノイズ電荷を求めることで、地上ソフトエラー率を評価する手法を開発しました。さらに、3施設7種類の中性子源を用いた測定と、原子力基礎工学研究センターが中心となって開発する放射線挙動解析コード「PHITS」を用いて地上ソフトエラー率評価計算を行い、本手法の有効性を実証しました。本手法により、特殊な中性子源以外にも国内外に多数存在する中性子源を活用した、地上ソフトエラー率評価が可能になります。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(JPMJOP1721)の支援を受けて実施しました。また研究プロジェクトの集大成となる本研究成果は、2023年5月29日に「IEEE Transactions on Nuclear Science」のオンライン版に掲載されました。(https://doi.org/10.1109/TNS.2023.3280190

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世界初!がん幹細胞の考慮により臨床の放射線治療効果の予測に成功
〜基礎細胞実験と臨床研究をつなぐ予測モデルを開発〜

2023.02.15

原子力基礎工学研究センターは、弘前大学および北海道大学と共同で、細胞実験で得られるがん細胞の殺傷効果と患者の治療効果を同時に再現可能な予測モデルの開発に世界で初めて成功しました。

放射線治療によるがんの治療効果は、培養細胞を用いた生物実験に基づき開発された細胞応答予測モデルを使用して、放射線の量(線量)と細胞殺傷効果(細胞死)の関係を推定することにより評価可能です。しかし、基礎細胞実験では均質な細胞集団を使用した実験が多い一方、臨床で取り扱うがん組織は不均質な細胞集団であるため、細胞実験により決定されるモデルパラメータでは臨床の治療効果の再現は不可能でした。そこで、不均質性をもたらす原因であるがん幹細胞に着目し、その存在割合を考慮した細胞殺傷効果予測モデル(integrated microdosimetric-kinetic (IMK) モデル)を開発することで、細胞実験で得られるがん細胞の殺傷効果と患者さんの治療成績を同時に再現することに世界で初めて成功しました。本研究では、肺がんの放射線治療効果について検討しましたが、今後は、様々ながん組織への応用や、がん幹細胞の含まれる割合が異なる患者さんに合わせたオーダーメイド治療への発展にも期待できます。

本研究成果は、2023年2月15日に『Radiotherapy and Oncology』 (インパクトファクター 6.901) に掲載されます。

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結晶粒超微細化により、酸素に起因したチタンの低温脆性を克服
〜悪者とされてきた不純物酸素の有効利用に期待〜

2023.02.02

原子力基礎工学研究センターは、京都大学との共同研究で結晶粒超微細化によって酸素に起因したチタンの低温脆性を克服することに成功しました。

チタンおよびチタン合金の結晶中に侵入型固溶原子として存在する酸素は、力学特性上の諸刃の剣と考えられてきました。酸素は強度を大きく向上する一方で延性(均一な伸び)を著しく低下させます。例えば、酸素格子間物質を0.3重量パーセント(wt.%) (~1.0原子パーセント(at.%))の濃度で添加するだけで、チタンは極低温の77ケルビン(K)で完全に脆くなってしまいます。その結果、チタンの工業生産においては酸素除去のためのコストが増加します。本研究では、チタンにおけるこのジレンマを克服する基本戦略として、結晶粒超微細化の有効性を明らかにしました。0.3 wt.%の酸素を含む超微細粒多結晶純チタン(平均粒径2マイクロメートル(μm))は、77Kで超高強度(~1250メガパスカル(MPa))と大きな均一伸び(~14%)を示すことを発見しました。先端的なナノスケール材料解析手法と理論計算により、高強度化と脆性抑制の理由が明らかとなりました。本成果は、チタンおよびチタン合金においてこれまで悪者とされてきた酸素の役割を転換し、酸素の有効利用と、チタン製造コストの低減の可能性を示すものです。

本研究成果は、国際科学誌「Nature Communications (https://10.0.4.14/s41467-023-36030-0)」に2023年2月1日付けでオンライン掲載されました。本研究は、JST・CREST「[ナノ力学]革新的力学機能材料の創出に向けたナノスケール動的挙動と力学特性機構の解明(JPMJCR1994)」、JST・さきがけ「[ナノ力学]力学機能のナノエンジニアリング(JPMJPR1998)」、文部科学省 構造材料元素戦略研究拠点(ESISM)の支援により実施されました。

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