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世界初!がん幹細胞の考慮により臨床の放射線治療効果の予測に成功
〜基礎細胞実験と臨床研究をつなぐ予測モデルを開発〜

2023.02.15

原子力基礎工学研究センターは、弘前大学および北海道大学と共同で、細胞実験で得られるがん細胞の殺傷効果と患者の治療効果を同時に再現可能な予測モデルの開発に世界で初めて成功しました。

放射線治療によるがんの治療効果は、培養細胞を用いた生物実験に基づき開発された細胞応答予測モデルを使用して、放射線の量(線量)と細胞殺傷効果(細胞死)の関係を推定することにより評価可能です。しかし、基礎細胞実験では均質な細胞集団を使用した実験が多い一方、臨床で取り扱うがん組織は不均質な細胞集団であるため、細胞実験により決定されるモデルパラメータでは臨床の治療効果の再現は不可能でした。そこで、不均質性をもたらす原因であるがん幹細胞に着目し、その存在割合を考慮した細胞殺傷効果予測モデル(integrated microdosimetric-kinetic (IMK) モデル)を開発することで、細胞実験で得られるがん細胞の殺傷効果と患者さんの治療成績を同時に再現することに世界で初めて成功しました。本研究では、肺がんの放射線治療効果について検討しましたが、今後は、様々ながん組織への応用や、がん幹細胞の含まれる割合が異なる患者さんに合わせたオーダーメイド治療への発展にも期待できます。

本研究成果は、2023年2月15日に『Radiotherapy and Oncology』 (インパクトファクター 6.901) に掲載されます。

リンク先:機構のHPプレス

結晶粒超微細化により、酸素に起因したチタンの低温脆性を克服
〜悪者とされてきた不純物酸素の有効利用に期待〜

2023.02.02

原子力基礎工学研究センターは、京都大学との共同研究で結晶粒超微細化によって酸素に起因したチタンの低温脆性を克服することに成功しました。

チタンおよびチタン合金の結晶中に侵入型固溶原子として存在する酸素は、力学特性上の諸刃の剣と考えられてきました。酸素は強度を大きく向上する一方で延性(均一な伸び)を著しく低下させます。例えば、酸素格子間物質を0.3重量パーセント(wt.%) (~1.0原子パーセント(at.%))の濃度で添加するだけで、チタンは極低温の77ケルビン(K)で完全に脆くなってしまいます。その結果、チタンの工業生産においては酸素除去のためのコストが増加します。本研究では、チタンにおけるこのジレンマを克服する基本戦略として、結晶粒超微細化の有効性を明らかにしました。0.3 wt.%の酸素を含む超微細粒多結晶純チタン(平均粒径2マイクロメートル(μm))は、77Kで超高強度(~1250メガパスカル(MPa))と大きな均一伸び(~14%)を示すことを発見しました。先端的なナノスケール材料解析手法と理論計算により、高強度化と脆性抑制の理由が明らかとなりました。本成果は、チタンおよびチタン合金においてこれまで悪者とされてきた酸素の役割を転換し、酸素の有効利用と、チタン製造コストの低減の可能性を示すものです。

本研究成果は、国際科学誌「Nature Communications (https://10.0.4.14/s41467-023-36030-0)」に2023年2月1日付けでオンライン掲載されました。本研究は、JST・CREST「[ナノ力学]革新的力学機能材料の創出に向けたナノスケール動的挙動と力学特性機構の解明(JPMJCR1994)」、JST・さきがけ「[ナノ力学]力学機能のナノエンジニアリング(JPMJPR1998)」、文部科学省 構造材料元素戦略研究拠点(ESISM)の支援により実施されました。

リンク先:機構のHPプレス