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超伝導技術で可視化する微量ウランの真の分布状態
〜環境中のさまざまな微量元素の移行挙動把握への期待〜

2024.04.11

原子力基礎工学研究センターは、立教大学、東京大学、高輝度光科学研究センターなどの複数の研究機関との共同研究により、環境中のウラン(U)の移行挙動を把握することを目的として、世界で初めて超伝導転移端検出器(TES)をマイクロビームX線による蛍光X線分光測定時の検出器に利用し、従来不可能だった環境中の微量のUの分布状態を正確に把握することに成功しました。

原子力発電用燃料として用いられるウラン(U)の環境中での移行挙動の把握は、放射性廃棄物の埋設処分時の安全性評価において重要です。環境試料中のUの検出には、試料に含まれる多くの元素の信号の中から、微量のUの信号のみを分別する新たな分析技術が望まれていました。そこで、高いエネルギー分解能で特定のエネルギーの信号を検出できる「TES」をX線分光用の検出器として用いることにより、従来の半導体検出器では他の元素の信号により埋もれてしまって見えなかった、微弱なUの信号を検出することに成功しました。この手法を、黒雲母に保持されたUの分析に適用し、環境中の黒雲母の風化した部位にUが濃集して保持されていることを明らかにし、黒雲母にUが濃集するメカニズムの一端を解明することができました。本研究により、環境試料中の超微量元素をマイクロメートルサイズの空間分解能で分析でき、元素の移行挙動のメカニズムを原子・分子スケールで解き明かすことで、Uだけでなくさまざまな元素の環境移行挙動研究への展開も期待されます。

本研究成果は、英国王立化学会発行の「Analyst」誌に2024年4月9日付でオンライン掲載されました。
論文情報:https://doi.org/10.1039/D4AN00059E

リンク先:機構のHPプレス

耐火ハイエントロピー合金の脆性と延性を支配する因子の解明
〜多様な元素が拓く優れた合金の開発〜

2024.03.07

原子力基礎工学研究センターは、京都大学との共同研究で新しい耐火・耐熱合金の開発を目的として、耐火ハイエントロピー合金(RHEA)が示す力学特性と機構を実験と原子シミュレーションにより明らかにしました。

エンジンや発電プラントの効率を高めるためには運転温度を上げる必要がありますが、タービンブレードで使用される合金では耐熱性能が限界にきています。そこで、高い融点を持つRHEAは超高温用途の新しい合金候補として期待されていますが、RHEAの多くは室温で脆いという欠点が知られていました。これまで、TiZrHfNbTa合金(RHEA-Tiとする)とVNbMoTaW合金(RHEA-Vとする)という2つの代表的な合金が広く研究されてきましたが、両者が示す強さや延びの違いの本質は明らかになっていませんでした。本研究では、優れた合金設計の指針を得るため、温度変化を考慮した詳細な実験と原子レベルのシミュレーションにより検討しました。その結果、RHEA-Tiは室温以下の低温でも優れた強度と延性を示すことが示されるとともに、原子シミュレーションによって、RHEA-Tiで観察される高い強度と低温における延びは、第IV族元素添加による電子の結合状態に基づく効果によってもたらされることが明らかになりました。以上の結果は、戦略的な元素設計が合金の機能制御に大きな威力を発揮することを示しています。本知見を生かした元素戦略に基づく合金設計により、次世代の高温構造用途に向けた新しい合金の開発が期待されます。

本研究成果は、英国の学術誌「Nature Communications(https://doi.org/10.1038/s41467-024-45639-8)」に2024年2月24日付でオンライン掲載されました。

リンク先:機構のHPプレス