(1)背景
核沸騰熱伝達は、単相熱伝達と比べて極めて高い熱伝達率となるため、沸騰水型原子炉、熱交換器、ボイラー等の基幹技術として古くから多くの研究がなされ、今なお、その重要性は変わっていません。
核沸騰は、気泡の生成、成長、離脱の現象により、複雑な熱伝達機構が存在するため、伝熱面からの熱伝達は、時間軸を入れた四次元空間内で部分的に集中したり拡散したりしている点に特色があります。この複雑さにより、従来の核沸騰熱伝達の評価には、時間的・空間的な平均量を用いた巨視的実験相関式が主流でしたが、適用範囲が制限されるという限界があります。
近年では、気泡の生成、成長や離脱過程における伝熱機構を考えに入れた熱伝達理論式、半理論式の研究が盛んになってきています。例えば、気泡成長中蒸発による熱伝達モデルとしては、蒸発による熱伝達qevの与え方に関して、気泡と壁の間に取り残されたミクロ液膜に対して、どこでも均一に蒸発する液膜均一理論と液体−気体−固体の三相接触線上に蒸発が集中する楔状集中理論があります。これらの理論のうち、どちらがより現実に即しているかを評価するには、時間的・空間的に変化する熱伝達量を高分解能で記録した実験データが必要です。しかし、既存の計測技術では、必要な詳細データを取得することが極めて困難であるため、既存のモデルは検証できず、すべて仮説の域を出ることはありませんでした。
(2)目的
本研究は、従来の計測システムでは困難な伝熱面表面温度、表面熱流束を高密度かつ高速度で同時計測できるシステムを開発し、既存熱伝達モデルの検証に必要な詳細データを取得することを目的としています。
(3)高密度高速度表面温度・表面熱流束同時計測システムの開発
本システムは、高密度に配置した熱電対素子を伝熱ブロック内部に二層に渡り装着する技術を開発し、高速度で熱起電力を記録する一次系と、二層で複数の熱起電力データから、加熱面表面温度と熱流束の変化を計測するための二次元円筒座標系逆問題解析を含む2次系から構成されます。
従来の熱電対では個々に二本の異種の金属導線を用いるため、高密度配置には向いていません。そこで、本研究では、微細熱電素線の陽極を共有することによって、配線数を減らし、熱電対の高密度配置を達成しました。その原理は図2.3.1.1に示します。
これまでに、テフロン被覆F78mmコンスタンタン素線を1mmの空間に2点を伝熱体内部に装着する技術を開発しました。気泡が中心軸対称と近似できることから、表面温度と表面熱流束は伝熱面中心を軸に対称と仮定し、F10×4mmの銅の伝熱体の半径5mmの方向に、上の表面から3mmの深さ及び下の表面からの5mmの深さに、二層にかけて各10点の熱電対素線を装着した試験体を開発しました。