熱流動研究内容

2.2.1 沸騰熱伝達実験

沸騰流定量評価

 ここで実施した液膜流下実験は、詳細二相流解析コードTPFITの検証のために実施しました。試験体概略を図2.2.1に示します。流路幅は12mmです。液膜を作るためにスリットを設けました。スリットから発熱開始部分までの未発熱の助走域の長さは139mm、伝熱面の発熱長は150mm、幅は10mmです。流量0.4kg/min、流路入口温度84℃、試験体傾き60℃(垂直からの角度)の条件で、液膜を作って実験を実施しました。実験結果の一例として、図2.2.2にヒータ出力が1400Wでの液膜挙動を示します。


図2.2.1 試験体概略図

   
Image at -0.1s  Image at Trigger point  Image at +0.1s
図2.2.2 撮影図面一例

沸騰モデル評価

 (1)背景
 核沸騰は、気泡の生成、成長、離脱の現象により、複雑な熱伝達機構が存在するため、伝熱面からの熱伝達は、時間軸を入れた四次元空間内で部分的に集中したり拡散したりしている点が特色です。この複雑さにより、従来の核沸騰熱伝達の評価には、時間的・空間的な平均量を用いた巨視的実験相関式が主流でしたが、適用範囲が制限されるという限界がありました。

 近年では、気泡の生成、成長や離脱過程における伝熱機構を考えに入れた熱伝達理論式、半理論式の研究が盛んになってきており、例えば、気泡成長中蒸発による熱伝達モデルとしては、蒸発による熱伝達qevの与え方に関して、気泡と壁の間に取り残されたミクロ液膜に対してどこでも均一に蒸発する液膜均一理論(図2.2.3(a))と液体−気体−固体の三相接触線上に蒸発が集中する楔状集中理論(図2.2.3(b))があります。

 これらの理論のうち、どちらがより現実に即しているかを評価するには、時間的・空間的に変化する熱伝達量を高分解能で記録した実験データが必要です。しかし、既存の計測技術では、必要な詳細データを取得することが極めて困難でるため、既存のモデルは検証できず、すべて仮説の域を出ることがありませんでした。


(a) 液膜均一理論      (b) 楔状集中理論
図2.2.3 蒸発による熱伝達機構

 (2)目的
 本研究は、別途開発している伝熱面表面温度、表面熱流束を高密度かつ高速度で同時計測技術を利用し、既存熱伝達モデルの検証に必要な詳細データを取得することを目的としています。特に、気泡成長中における薄液膜部での伝熱量を高空間分解能、高時間分解能で計測して、既存の蒸発モデルを検証することが一番の目的です。

 (3)試験
 図2.2.4に試験装置の概略図を示します。試験装置は、沸騰容器と伝熱ブロックから構成されます。伝熱ブロックは沸騰容器の下部に設置され、下部伝熱体と上部伝熱体を構成します。下部伝熱体に挿入したカートリッジヒータによって発熱します。その発熱量は、上部伝熱体を通して沸騰容器内の水に伝わります。上部伝熱体は、項目3.1で開発された微細熱電素子をつけた試験体です。

 気泡が中心軸対称と近似できることから、表面温度と表面熱流束は伝熱面中心を軸にして対称と仮定し、上部伝熱体の半径5mmの方向に、上の表面から3mmと下の表面からの5mmの表面に、二層にかけて各10点の熱電対素線を装着しました。

 試験で、高空間分解能、時間分解能の温度データを計測し、その計測データから表面温度・表面熱流束データを算出します。沸騰現象の高速度、高解像度ビデオカメラによる同期記録データを基に、核沸騰周期における熱伝達機構の物理を理解し、沸騰伝熱モデルの妥当性を検証しています。
 計測するデータは次のとおりです。
 1) 上部伝熱体における温度データ
 2) 沸騰容器の水温
 3) 加熱量
 4) 高速度ビデオカメラの観察画像


図2.2.4 試験装置の概略図