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新たな中性子利用開拓の鍵となる高精度核反応計算手法を開発
〜計算結果を基礎科学や医療等での中性子利用に資するデータベースとして公開〜

2021.02.12

原子力基礎工学研究センターは、九州大学、大阪大学と共同で、重陽子による核反応からの中性子発生量を高精度に予測する計算手法を開発しました。また、その予測値を基に中性子源の設計のための核反応データベースJENDL/DEU-2020を整備し、公開しました。

原子核物理や医療などの分野では、10MeVを超える高いエネルギーをもった中性子が大量に必要とされはじめています。しかし、原子炉などを用いた従来の中性子源では、こうした要求を満足させる中性子を供給することはできません。そこで、新たな中性子源として、重陽子による核反応を利用したものが注目されています。

利用目的に応じた様々な仕様の中性子源を設計し、性能を検討するには、重陽子による核反応から発生する中性子の量を様々な条件(衝突させる重陽子のエネルギー、標的となる原子核の種類など)で精度良く予測できなければなりません。しかし、従来の予測手法では広範な条件での信頼性の高い予測ができませんでした。これは、重陽子が持つ量子力学的な「波」としての性質を十分に取り入れておらず、重陽子が陽子と中性子に分解する過程を適切に計算できていなかったためです。

本研究では量子力学的効果を考慮した複数の理論モデルを組み合わせることで、重陽子による核反応から生じる中性子量を予測する新たな計算手法を開発しました。実測値との比較から、開発した手法は従来の予測手法よりも中性子発生量の予測精度が4倍以上向上していることが確認されました。さらに、本手法による予測値を中性子源の設計に用いられるシミュレーションソフトウェアで利用できるデータベースの形にまとめ、JENDL/DEU-2020として整備し、公開しました。

JENDL/DEU-2020を使用することで、シミュレーションの信頼性が大きく高まります。これによって、利用目的に応じた様々な中性子源を検討・設計・運転することが容易になり、基礎科学や医療など幅広い分野における中性子利用の促進が期待されます。

JENDL/DEU-2020は以下のホームページから2021年2月10日に公開しました。
https://wwwndc.jaea.go.jp/index_J.html

本研究成果は、日本原子力学会英文論文誌「Journal of Nuclear Science and Technology」に2021年2月10日付でオンライン掲載されました。

リンク先:機構のHPプレス

患者の個性を反映したα線核医学治療の線量評価が可能に
〜オーダーメードの治療計画で、より安全で効果的な治療法の確立を目指す〜

2021.01.15

原子力機構・原子力基礎工学研究センター佐藤達彦研究主席(大阪大学核物理研究センター特任教授を兼任)、大阪大学大学院医学系研究科の渡部直史助教らの研究チームは、患者のPET-CT画像から自動で体内の積算放射能分布を推定し、放射線挙動解析コードPHITSを用いて吸収線量や治療効果を推定するα線核医学治療用の線量評価システムの開発に成功しました。

短い飛程で高いエネルギーを放出するα線を用いた標的核医学治療(Targeted Alpha Therapy、以下「TAT」という。)は、高い治療効果と少ない副作用を兼ね備えた新しいがん治療方法として社会の大きな注目を集めています。しかし、X線治療など従来の放射線治療で使われてきた線量評価システムはTATには適用できず、その開発が望まれていました。そこで、本研究では、患者個人のPET-CT画像から自動で体内の積算放射能分布を推定し、原子力機構が中心となって開発した放射線挙動解析コードPHITSを用いて吸収線量分布を計算するTAT用の線量評価システムを構築しました。また、α線の高い細胞殺傷効果や腫瘍内における薬剤不均一性を考慮して等効果線量(同じ効果を与えるX線治療の線量)を推定する新しいモデルを確立し、構築したシステムに搭載しました。これにより、これまで膨大に蓄積されたX線治療の臨床結果からTATの治療効果や副作用の大きさが推定できるようになり、オーダーメードの治療計画が可能となりました。

また、PET用核種(18F [フッ素18])をラベルした新しいプローブ(NKO-035)を健常者に投与した臨床試験結果を用いて、構築したシステムの検証を実施しました。その結果、図1最右図に示すように、陽電子を放出するPET核種の場合は、等効果線量は本来の線源の位置からかなり離れた場所まで拡がっていることが分かりました。さらに、核種をα線源(211At [アスタチン211])に変更して計算したところ、線量の拡散は少ないものの、臓器内の線量不均一性が高く、薬剤の投与量を増やしても等効果線量が単調に増加しないことが判明しました。これは、腫瘍内にできるだけ均一に拡がる薬剤開発がTATの成功のため極めて重要となることを示唆しています。

本研究成果は、欧州核医学物理誌(EJNMMI Physics)に2021年1月12日付けでオンライン掲載されました。今後は、構築したシステムを大阪大学医学部附属病院で実施予定の新しい薬剤を用いたTAT臨床研究に応用し、最適な投与量や分割回数の決定など、より安全で効果的な治療法の確立を目指す予定です。

リンク先:機構のHPプレス