核変換システム開発グループでは、 原子力発電所から排出される高レベル放射性廃棄物(HLW)に含まれる、 マイナーアクチノイド(MA)および長寿命核分裂生成物(LLFP)の 核変換処理に関する研究を行っています。
HLW処分の最も大きな問題は、 その放射性毒性が天然ウランのレベルまで低下するのに 数万年オーダーの時間を要する点が挙げられます。 また、現在、HLWは地下300mより深い安定な地層に処分する方針となっていますが、 処分する廃棄物の量をできるだけ少なくし、 処分施設を効率的に使用することが必要です。
これらの要求に対し、当グループでは、 加速器駆動未臨界システム(ADS)を中心とした核変換処理技術による対処方法を検討しています。
(以下、各項目にジャンプします)核変換処理
HLWには、MAやLLFPとともに、発熱性の高いストロンチウムやセシウム、白金属等の有用な元素も含まれています。 これらをその性質に応じて分離し(Partitioning)、MA・LLFPを対象に中性子を照射し、 核分裂反応もしくは中性子捕獲反応により、放射性毒性の弱い核種もしくは短寿命核種に変換する方法を 核変換処理(Transmutation)といいます(図1)。
MA核種の核変換の場合、熱中性子(低エネルギーの中性子)より、高速中性子(高エネルギーの中性子)を利用する方が効率的です。
そこで、MAの核変換処理を行う方法としては、大きく分けて(1)高速炉(FR)による方法と(2)加速器駆動未臨界システム(ADS)による方法に分けられます。 当グループでは、大量のMAを効率的に核変換できる(2)のADSによる方法を中心に検討しています。
図1 核変換処理を導入した階層型処分の概念
加速器駆動核変換システム(ADS)
ADSは、MA燃料で構成された未臨界炉を強力な加速器中性子源により運転するシステムです。 ADSの特徴として、
- 反応度係数に対する制限が厳しくないので、設計上の自由度が大きい
- 臨界に保つ必要がないため、臨界状態の高速炉に比べてMA・LLFPの装荷量を多くすることが可能
- 陽子ビームの遮断により核分裂連鎖反応が即座に停止するため、安全設計の負担が臨界炉に比べて少ない
現在、当グループで検討しているADS(未臨界炉心の熱出力800MW)は、1年で約250kgのMAを核変換することが可能です。 この量は電気出力1000MW級の軽水炉約10基から1年間に排出されるMA量に相当します。
図2 ADSの概念
基本設計
ADSの基本設計値は炉物理、機械工学、材料の観点から現在下記のように設定しています。
図3 ADSの未臨界炉設計概念図
表1 ADSの主要なパラメータ
Proton beam | 1.5 GeV, ~20 MW |
Spallation target | Lead-Bismuth Eutectic |
Coolant | Lead-Bismuth Eutectic |
Maximum subcriticality | keff = 0.97 |
Thermal power | 800 MWt |
Core height | 1000 mm |
Fuel composition | (60%MA + 40%Pu) mono-nitride |
Transmutation rate | 10% MA/year (10 units of LWR) |
Burnup reactivity swing | 1.8% Δk/k |
研究課題
ADSは未臨界炉と加速器を結合させた新しいシステムのため、その実現には多岐にわたる研究開発が必要とされています。 研究課題をADSの構成要素ごとに大まかに分類すると
- 陽子加速器
- 未臨界炉心 (関連 : 炉物理実験)
- ターゲット及び冷却材技術 (関連 : 液体鉛ビスマスの静的腐食試験)
我々のグループでは、このうち「未臨界炉心」と「液体金属の運用」に関係する研究開発を中心に行っています。詳細はこちら
炉物理実験
ADSでの中性子の振る舞いを正確に知るための炉物理実験を、様々な臨界実験装置を用いて行っています。
(以下、各項目に関するページに飛びます)
また、炉物理実験データは、ADS以外の原子炉開発にも役立っています。
液体鉛ビスマスの静的腐食試験
ADSを構成する未臨界炉では、冷却材および核破砕ターゲットに液体鉛ビスマス(LBE)を用いることを想定しています。LBEは鋼材に対する腐食性が比較的強いため、腐食に耐える材料の開発、使用環境条件(温度、含有酸素濃度など) の影響に関する研究が重要となります。 詳細はこちら
PSiプロジェクト
これまでは課題解決の手法として実験が主でしたが、 ADSの研究開発をより推進するため、計算科学を活用したPSi (Proton accelerator-driven subcritical virtual system)プロジェクトを開始しました。このプロジェクトでは、最新の技術・知見を考慮し、計算科学を活用することにより、合理的かつ効率的なADS研究開発を行います。 詳細はこちら
図4 PSiプロジェクトの構成
分離変換技術で地層処分場を変える
上述のADSそのものに関する検討と並行して、分離技術およびADSによる核変換が実際に核燃料サイクルに導入された場合の、コストや廃棄物処分施設の合理化の可能性について調査を実施しています。 詳細はこちら