JAEAが提案するADSでは、MA核種を核分裂、すなわち燃料として消費することで核変換を行います。このとき、ADSの炉心は未臨界状態に保たれます。
未臨界の炉心では、核分裂の連鎖反応の持続させるためには外部から中性子を投入する外部中性子源が必要になります(図1)。
したがって、外部からの中性子の供給を断てば即座に核分裂の連鎖反応を停止、すなわち運転を停止することが可能です。
また、ADSは未臨界とすることで反応度投入事象(何らかの原因で臨界に近づく事象)に対する余裕を大きくとることができますので、臨界事故がより起きにくく高い安全性を有していると言えます。
図1 未臨界体系における核分裂連鎖反応の様子
ADSは未臨界であることで安全性を担保していますので、何らかの方法によって炉心が未臨界であるかを確認し、またその未臨界度(どのくらい臨界から離れているかを表す指標)を測定によって確かめる必要があります。
その方法の一つにパルス中性子源法(PNS法)があります。
この方法では、パルス中性子を入射(瞬間的に中性子を投入)し中性子の数の時間変化を観察することによって未臨界度を測定します(図2)。
未臨界炉心では、核分裂連鎖反応はいずれ終息するため、核分裂連鎖反応を媒介する中性子数は時間とともに減少します。中性子数の減少が遅いほど、核分裂連鎖反応が長時間持続していることを意味し、逆に速いほどすぐに核分裂連鎖反応が終息することを意味します。
したがって、中性子数の減少の速さを測定することで炉心がどのくらい未臨界であるか測定することが可能です。
図2 パルス中性子源法における中性子数の時間変化
しかしPNS法には課題があります。
通常、中性子数は炉心のある位置に配置された中性子検出器を用いて測定されます。このとき、検出される中性子数は必ずしも炉心全体の中性子数に比例せず、検出器の位置に応じて減少の速さが異なっているように観察されてしまいます。
図3には外部中性子源から距離に応じた中性子数を例示しています。外部中性子源から遠ざかるほど、中性子数の立ち上がりが遅くなり、減少の速さが緩やかになっていくように見えます。
これは、外部からやってきた中性子が炉心の中を飛行し、核分裂を起こし、その核分裂中性子が検出器まで飛行して検出されるまでに時間的な遅れがあるためです。
一方、検出器に近い位置では、外部からやってきた中性子が核分裂を起こすことなく直接検出器に入射し検出されてしまうため、減少の速さが急になっているように観察されます。
このような検出器の位置に対する依存性は、測定精度を悪化させる要因になります。
図3 検出器位置の違いによる中性子数測定結果
そこで、当グループでは高精度の未臨界度測定に向けて、複数の検出器から得られる中性子数測定結果をうまく結合し、核分裂連鎖反応に起因する成分を抽出する手法を提案しました。
図4には、京都大学臨界集合体(KUCA)において実際に得られた中性子数の時間変化の測定結果と、提案手法によって抽出された成分を示しています。
実験で得られた中性子数の時間変化は検出器依存性を示していますが、提案手法によって結果を結合することによって核分裂連鎖反応に起因する単一の成分を抽出することを実験的に示すことができました。
図4 KUCAでの実験結果と提案手法の適用結果
参考文献
[1] R. Katano, “Estimation method of prompt neutron decay constant reducing higher order mode effect by linear combination,” Nucl. Sci. Eng., 193, 431-439, (2019).
[2] R. Katano, M. Yamanaka, C. H. Pyeon, “Measurement of prompt neutron decay constant with spallation neutrons at Kyoto University Critical Assembly using linear combination method,” J. Nucl. Sci. Technol., 57, 169-176, (2019).