核変換用炉心設計に必要な核データの検証
原子力発電所から排出される高レベル放射性廃棄物には、長期に渡り放射性毒性が強い長寿命核種としてアメリシウム(Am)、ネプツニウム(Np)、キュリウム(Cm)等のマイナーアクチノイド(MA)が含まれます。
これらの長寿命核種を分離して、中性子との核反応として核分裂させることにより安定又は短寿命の核種に変えることができます。
私たちは、加速器を用いた核変換専用のシステム(加速器駆動システム(ADS)と呼ばれます)を検討し、放射性廃棄物の環境負荷の低減を目指しています。
核種毎に核分裂を起こす確率(核分裂断面積と呼ばれます)は中性子のエネルギーに依存し、特にMAの核分裂断面積は核変換用の炉心を設計する上で重要な核データのひとつです。
この核データの信頼性を評価するために、臨界集合体等を用いて取得された実験値と核データを用いてシミュレーションにより得られた計算値を比較することが有効です。
高速炉臨界実験装置(FCA)では、MAを含む 超ウラン核種(TRU)に関する核分裂率比が複数の実験炉心で測定されました。
本実験では、各炉心が燃料とグラファイト又はステンレスといった減速材(衝突により中性子がエネルギーを失う材質)の単純な組合せで構成されており、その混合割合の違いにより炉心の中性子の平均的なエネルギーが系統的に異なるのが特徴です(図1)。
図 1 炉心の中性子のエネルギー分布
実験炉心の番号が1(赤色)から6(青色)に大きくなるに従って、徐々にエネルギーの高い中性子が増加(平均的なエネルギーが増加)しています。本実験では、これらの複数の実験炉心を用いてTRU核種に関する核分裂率比が系統的に測定されました。
私たちは、本実験データをTRU核種の核分裂断面積の検証に活用し易いようにベンチマーク問題として整備し、原子力機構で開発した核データであるJENDL及び国外の最新核データを用いた解析を行いました。
Np-237核分裂断面積に関して、いずれの核データによる計算値も実験値をよく再現することが分かりました。
また、Am-241及びAm-243核分裂断面積に関しては、いずれの核データによる計算値も実験値を僅かに過小評価することを示しました。
更に、Cm-244に関する核分裂率比に関しては、JENDL-3.2(旧版)による計算は実験値を比較的良く再現する一方で、JENDL-4.0を含む国内外のいずれの最新の核データによる計算は大幅に過大評価することが分かりました(図2)。
図 2 実験値と計算値の比較の一例(Cm-244に関する核分裂率比)
●は原子力機構で開発したJENDL-4.0(最新版)の結果、○はJENDL-3.3(一世代前の旧版)の結果、▲は米国のENDF/B-VII.1(最新版)の結果、■は欧州のJEFF-3.2(最新版)の結果です。
これに対して、これらの計算値の過大評価が、10MeV付近の中性子エネルギーのCm-244の核分裂断面積の差異に起因していることを示しました。
FCAを用いて得られた本実験データは、世界的にも類がなく、その活用によりMAを含むTRU核種の核分裂断面積の精度向上に寄与することが期待されています。
参考文献
M. Fukushima, et.al., "Analyses with latest major nuclear data libraries of the fission rate ratios for several TRU nuclides in the FCA-IX experiments", J. Nucl. Sci. Technol. 54(7) (2017).