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研究内容

Research

ADSの研究開発

ADSとは

核変換の対象としているマイナーアクチノイド(MA)は、エネルギーの高い中性子を当てることで効率的に核変換することができます。

エネルギーの高い中性子を用いるには、高速炉を用いることになりますが、高速炉にMAを装荷すると、安全に関わるパラメータ(冷却材ボイド反応度、ドップラー反応度)が悪化します。これは、何か事象が起きた場合に、即発臨界に達する可能性が高くなります。そのため、高速炉でMA核変換を行う場合には、MA装荷量に制限がかかります。

MAを大量に装荷し、効率的に核変換を行うことを考えた場合、上述の即発臨界に達することを避けるため、未臨界で運転することが考えられます。一方で未臨界状態では、核分裂の連鎖反応が持続せず、出力を一定に保つことができません。そこで加速器から粒子を供給し、何らかの反応で生じる中性子を与え、未臨界炉心を運転します。

我々のグループが検討しているADS(図1)では、MA主体の燃料を装荷した炉心の中心に核破砕ターゲット(液体鉛ビスマス:LBE)を置き、これに高エネルギー陽子を当て、これにより生じる核破砕中性子を使ってMA核種を核分裂させ、核変換を行います。


図1 ADSの基本概念と特徴

ADSの特徴

ADSには以下の特徴があります。

  • 反応度係数に対する制限が厳しくないので、設計上の自由度が大きい
  • 臨界に保つ必要がないため、臨界状態の高速炉に比べてMA・LLFPの装荷量を多くすることが可能
  • 陽子ビームの遮断により核分裂連鎖反応が即座に停止するため、安全設計の負担が臨界炉に比べて少ない

現在、我々のグループで検討しているADS(未臨界炉心の熱出力800MW)は、1年で約250kgのMAを核変換することが可能です。この量は電気出力1000MW級の軽水炉約10基から1年間に排出されるMA量に相当します。

ADSの開発課題

ADSは加速器と未臨界炉を組み合わせた新しいシステムのため、様々な開発課題があります。ここでは、我々のグループが取り組んでいる研究内容の概要を紹介します。

未臨界炉
  • ADS炉心の燃焼特性 :
    MAを装荷したADS炉心の燃焼特性を検討するため、解析するための計算コード(ADS3D [1])を開発し、実際の燃焼特性を解析しました [2]。図2に示すように、実効増倍率は0.98から0.96の間で変化し、この間、出力を一定に保つための陽子ビーム電流値は9~16mAで推移することが示されました。
  • 炉容器内のLBE流動解析 :
    ADS炉容器内は、炉心を冷却するためLBEが循環しています。この流動特性を知り、適切な冷却が行われているかどうかを確認するため、CFDコードを用いて、炉容器内全体の流動解析を実施しています。
  • 燃料集合体の流動解析 :
    ADS炉心は、MA燃料ピンを束ねた燃料集合体により構成されます。この燃料集合体の中をLBEが通過し、除熱を行いますが、その際の流動特性についてもCFDコードを用いて解析しています。


図2 燃焼計算の一例(左:実効増倍率の変化、右:陽子ビーム電流値の変化)[2]

ターゲット及び冷却技術
  • 核破砕ターゲット領域の流動解析 :
    陽子ビームが入射し、核破砕中性子を作り出す核破砕ターゲット領域は、流動LBEに高エネルギー陽子(1.5GeV)が当たることで発熱します。これらの発熱はビーム窓(次項目)の設計に大きく影響することから、その流動特性を確かめるため、CFDコードにより解析をしています[3]。
  • ビーム窓の設計検討 :
    加速器と未臨界炉の境界を成す構造物をビーム窓と呼んでいます(図3)。加速器側は真空、未臨界炉側は高温のLBEに接触し、陽子ビームによる発熱、陽子・中性子による照射損傷、LBEによる鋼材腐食、高温クリープなど、非常に過酷な環境で用いられます。ビーム窓はADS固有の構造物であり、ADSそのものの成立性に直結します。成立性の見込めるビーム窓を検討するため、粒子輸送・熱流動・構造の連成解析を実施し、過酷な条件においても成立の見込める設計範囲を提示しました [3]。
  • LBE中の鋼材にできる酸化皮膜に関する研究 :
    LBE中の鋼材は腐食しやすいことが知られています。一方で、LBE中の酸素濃度を適切に保つことにより、鋼材に酸化被膜ができ、腐食を防止できることも知られています。 詳細はこちら
    この酸化被膜に熱衝撃が加わった時の挙動に関する研究、およびADS炉容器内の酸化被膜形成予測に関する研究を行っています。


図3 JAEA-ADSおよびビーム窓の概念図 [3]

これらの開発課題を合理的かつ効率的に研究するため、計算科学を活用するPSiプロジェクトを行っています。
詳細はこちら

このように、本来、大規模な実験を通じて得られるデータを、計算科学を駆使して得ることにより、大規模実験施設等の建設を極力避け、合理的・効率的な研究開発を進めます。

参考文献

[1] T. Sugawara, K. Nishihara, H. Iwamoto, et al., “Development of three-dimensional reactor analysis code system for accelerator-driven system, ADS3D and its application with subcriticality adjustment mechanism”, J. Nucl. Sci. and Technol., 53(12), pp.2018-2017, (2016).

[2] T. Sugawara, R. Katano, K. Tsujimoto, “Impact of impurity in transmutation cycle on neutronics design of revised accelerator-driven system”, Annals of Nuclear Energy, 111, pp.449-459, (2018).

[3] T. Sugawara, Y. Eguchi, H. Obayashi, et al., “Conceptual design study of beam window for accelerator-driven system with subcriticality adjustment rod”, Nuclear Engineering and Design, 331, pp.11-23, (2018).